「スポーツが強固な絆を生む」阪神タイガースがウェールズになれないワケ

今こそ知りたい! 「方法論」より「目的論」(2)
問題を解決しようとがんばっているけれど、自分が少しかわいいゆえに、その場しのぎの決断を繰り返す――そうして本来の「目的」を見失い、「方法論」ばかりに目を向けるこの国のリーダーたち。一方、一流アスリートたちは、「なぜ?」「どうして?」を繰り返し掘り下げて、正しい戦略のもとに正しい努力を積み上げて成功を収めている。
スポーツアパレル「アンダーアーマー」の日本総代理店・株式会社ドーム代表取締役CEO・安田秀一著『「方法論」より「目的論」「それって意味ありますか?」からはじめよう』より注目の章を短期連載!

「好き」から始まり高まっていく欲求

ご存じの方も多いかもしれませんが、アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908~1970)が提唱した心理学理論で、人間の欲求は低いほうから「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」という五段階がピラミッドのように積み重なっていて、低いレベルの欲求が満たされるごとに、もう一つ上の欲求を持つようになるという考え方です。

安田秀一氏 撮影/渡辺充俊
 

たとえば、飢え死に寸前だった人が食事にありつけて「生理的欲求」が満たされたら、次は安心して休めるような場所が欲しくなります。「安全の欲求」です。安全が確保されたらより安心して生活ができるように仲間が欲しくなるという「社会的欲求」が高まっていく、という感じで、人間というのはどんどん欲求がエスカレートしていくというのが、マズローの基本的な理論です。

この理論は、人というのは「目的」があるから上を目指して成長できるということでもある、と僕は理解しています。

なぜそう思うのかというと、僕がこれまで生きてきたスポーツの世界というのは、まさしくこの「マズローの法則」通りに成長をしている人間がたくさんいるように思えるからです。

人がなぜスポーツを始めるのかというと、理屈なしに「好き」だからです。サッカーボールで遊んでいると時間が経つのを忘れてしまう。とにかく野球をしていれば幸せという感じで、子どもたちが「三度のメシより好き」という状況になるのは、そのスポーツをやること自体に食事や睡眠と同じような「生理的欲求」があるからではないでしょうか。

この純粋な「好き」という欲求が満たされると、次はケガなどをすることなく、しっかりとした環境でそのスポーツを存分に楽しみたいという「安全の欲求」が芽生えます。学生ラグビーで前人未到の九連覇を成し遂げた帝京大学の岩出雅之監督は、「体育会イノベーション」を掲げて学生たちを指導しています。戦力が毎年入れ替わる学生スポーツで九連覇というのがどれほどの偉業かということは説明するまでもありませんが、そのバックボーンとなっている「体育会イノベーション」とは、単純に言うと、従来であれば一年生がやるような雑用を四年生が率先してやり、一年生には新たな環境に慣れることに専念させるというチームづくりのことです。

岩出監督によると、高校までとは異なる環境に飛び込んできた一年生は、やはり「安全の欲求」が強いそうです。ここで雑用から解放して一年生の居場所をつくり、「安全の欲求」を満たしてあげると、若い選手たちにはチームへの帰属意識やチームメイトとの信頼関係、チームのために貢献をしたいという「社会的欲求」が生まれてきます。さらには、チームの中で自分の力を認めてもらいたい、試合で活躍して高く評価されたいという「承認欲求」へとつながり、一人ひとりが切磋琢磨して毎年のように強いチームになる、強い絆で結ばれたコミュニティが形成されるという好循環ができているのです。

編集部からのお知らせ!

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/