俳優の三浦春馬さんが急逝して1年になる。ボイストレーナーとして7年、春馬さんを支えた斉藤かおるさんは、「いまだ傷が癒えず、答えを探し求めるファンの方に、寄り添うようなメッセージが届けられたら、私も結果的に癒されるかもしれない」と取材に応じてくださった。うかがった大事なエピソードを4回にわたって紹介する。春馬さんが読売演劇大賞の杉村春子賞も受賞した当たり役、ミュージカル『キンキーブーツ』のローラ役との向き合い方をお伝えした第1回2回、歌手になった理由やその歌詞のためのノートの存在をお伝えした第3回に続き、第4回では春馬さんが見続けていた未来のこと、そして私たちができることをお届けする。

2016年、ベネチア国際映画祭にて Photo by Getty Images
斉藤かおる ボイストレーナー・ボイスペダゴーグ。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。子供の頃から童謡歌手として活躍。NHK教育番組の「うたのおねえさん」を務めた。その後、発声に特化した指導をスタート。歌だけではなく、声に関することならどんなことでも指導する。生徒の9割は、俳優や歌手などのプロだという。
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『天外者』レッスンの成果

昨年末には、斉藤さんも、春馬さんが主人公の五代友厚を演じた映画『天外者』を見た。

「共演者は輪郭の太い人ばかり。例えば、西川貴教さんは歌手だから声が出るし、キャラクターも強い。彼の存在感は、本読みの段階から、時代を動かす五代友厚のキャラクター作りにいい影響を与えたと思います。天外者の撮影は、演技上のキャッチボールを声色で深めることを、学んだ後でした。

春馬くんは、もともと茶目っ気もある繊細な人だから、そこを活かしつつ、役の太さと融合させて、五代としてしっかり存在していました。『よく考えたなあ、レッスンの成果が出ている』と思いました。声色の使い分けで、優しさや夫婦の愛、五代が変わった人だったというところも、よく表現しています。

春馬くんの演技は、表現が豊かで自然で、素晴らしかった。演技に関して、ダメ出ししたことは一度もありません。私のレッスンでは、彼の考えた表現を膨らませる、技術的な裏付けを勉強しました。

ある時、春馬くんは『緊張すると、お腹が悪くなっちゃう』と言っていました。その話を聞いて、お腹は、声と密接に関係があるので、どんなふうに腹から声を出すか練習しました。

例えば、『腹を立てる』というシーンで、言葉通り『内臓が縦になる』イメージで声を出すとどうなるか。息をどう吸うか。イメージ通り、演技したら説得性があるね、と。

春馬くんには、『具体的な方法があるんだ』と新鮮だったようです。そうしたレッスンがやみつきになって、『役として、生きる=息る、だね』と話していました。この教えは、五代が大勢の前で演説するシーンにも現れています」