「うわ! 大変だ!」
幸太は慌てて外に飛び出し、近くの警察署へと駆け込んだ。
しばらくして警察が到着し、死体の身元確認が行われたのだが、その女性の死体は現地の若手警官が思わず目を背けたくなるほどに凄惨なものであった。
女性の死体は首が鋭利な刃物で切断され、頭部が行方不明。上半身は内臓が露出するほど深く切り刻まれ両乳房がなく、同じく下腹部もズタズタに切り裂かれていた。
さらに気味の悪いことに、死体の近くには犯行に使われたと思わしき出刃包丁が落ちていたのだが、その出刃包丁には数珠が巻かれていたのだ。
この女性の死体は近くに遊郭があったことから、当初は遊郭で働いている女性が殺害されたのでは? といった推理も飛び出したが遊郭では該当する女性はおらず、この遺体の近くには、この女性が男性へ送ったと思わしき恋文が落ちており、遊郭の女性でないことがわかった。
増淵倉吉という男
遺留品と検視の結果、この女性は2月5日から行方不明だった名古屋市内で青果業を営む家庭の次女・吉田ます江(19歳)とわかった。
ます江は大人しい女性で、高等小学校を卒業後、1年ほど前から花嫁修業の一環で近所の裁縫教室に通っていた。
ます江は当初、近くに住んでいる「増淵」という家でミシンを習っていたが、この家の師匠である女性が亡くなった後は、親戚の家でミシンを習っていたという。