生物学者と化学者の“ラーメン屋会議”が食糧危機を解決!?

分子の力でアフリカを緑の大地に
清水 修, ブルーバックス 編集部

ある日、ストリゴラクトンの存在を知る

「今日はストライガとSPL7の話ですね。よろしくお願いします!」

【写真】森川彰先生はケニアから参加右は土屋雄一朗先生。左の森川彰先生はケニアからの参加となった! 拡大画像表示

Zoom画面に映し出される土屋さんと森川さんの笑顔。土屋さんは名古屋から、森川さんはアフリカのケニアからの出席である(こういうことができるのがオンラインの良いところ)。まずは研究の話を聞く前に、同席している広報部門の佐藤綾人さん(リサーチプロモーションディビジョン、特任准教授)から「WPI-ITbMとはどんな研究所なのか」をご説明いただこう。

「13のWPI拠点のひとつであるWPI-ITbM(名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所)は、生物学と化学の学際領域の研究を進める研究所です。生物学者と化学者が一緒になって各研究を進めています。具体的な柱としては『4つのフラッグシッププロジェクト』というものがあります。体内時計、ケミカルバイオロジー、化学駆動型バイオイメージング、それから、今日、土屋さん・森川さんに話してもらうストライガに関する研究の4つです。今年度から『ITbM2.0』ということで、この4つに加えて、『ナノカーボン・バイオロジー・ケミストリー』というフラッグシッププロジェクトが加わりました。これはグラフェンやカーボンナノチューブとして知られる『ナノサイズの炭素材料』を積極的に異分野に使っていこうというプロジェクトです」(佐藤綾人特任准教授)

【写真】名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)拡大画像表示

なるほど。ありがとうございます。今日うかがうお話も生物学と化学のミックスなのであろう。

ではさっそく土屋さん・森川さんにインタビューを開始。

『魔女の雑草』という言葉はものすごくインパクトがありますが、土屋さんはどんなきっかけでこの言葉を知り、ストライガの研究を始めようと思ったのでしょうか。

「ぼく自身は昔からずっと種子発芽の研究をしてきたのですが、ストライガに関しては2003年頃までまったく知りませんでした。当時、シロイヌナズナ【註:アラビドプシスArabidopsisの和名。アブラナ科の植物】というモデル植物を使って『普通の植物がどうやって発芽しているのか』という研究をしていました。その過程で『ある化合物』を見つけました。その化合物は植物の発芽を刺激するのですが、どうやら『ストリゴラクトン』と言われる分子と似ているらしいということが分かりました。さらに、ストリゴラクトンについて調べていくと、2003年当時は本当に知られていない分子で『ストライガという寄生植物の発芽を刺激する、宿主植物が出す分子(物質)である』ということだけが分かっていました。その時に初めて、ストライガがアフリカで甚大な問題を引き起こしていることを知り、『ストリゴラクトンの研究を進めて、ストライガを撲滅しよう』と思ったんです」

寄生生物ストライガの巧妙な生存戦略

それにしても、アフリカでは、なぜストライガがそんなに広がってしまったのだろうか。そして、なぜそれまでストライガを駆逐することができなかったのだろうか。

ストライガがアフリカ大陸全体の広大な農地に広がってしまった理由はその「巧妙な生存戦略」にある。ストライガは0.1mmから0.3mmという、まるでホコリみたいな極小の種をきわめて大量に産生する(1個体あたり20万個!)。それが風に乗って広範囲に飛ぶ。各地に降り立ったストライガの種は土中に入り、やがて発芽して穀物の根に寄生し、枯れるまで栄養を吸い取る。そして、これがストライガの驚異的に巧妙なところなのだが、周囲に寄生できる植物がない場合、降り立った種はまるで冬眠でもするかのようにそのまま10年も20年もじっとしているのだ。そして、周囲に植物が植えられたら、満を持して発芽し、目当ての植物に寄生する。農作物を守るためにストライガを引っこ抜いても、広大な土地にばら撒かれた種がミクロの地雷のように埋まっているのだから駆逐などできようはずもない。まったくもって「魔女」のような巧妙さではないか。

ともあれ、2003年、土屋さんはひょんなことからストリゴラクトンの存在を知り、ストライガ撲滅のための研究を始めた……。そもそも、ストライガはどのようなメカニズムで穀物に寄生するのでしょうか。

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