3歳と1歳の男の子がいる上に、妊娠4カ月。そんなときに夫がテロに巻き込まれたら……2001年9月11日、本当にその状況に陥ってしまったのが、杉山晴美さんだ。夫の陽一さんは富士銀行NY支店勤務で、ワールド・トレード・センターのサウスタワー80階にあるオフィスに通っていた。しかしそのビルに9時3分、無情にもハイジャックされた飛行機が突っ込んでしまう。

行方不明になった陽一さんをはじめ、多くの方への必死な捜索と救助が続いた。しかし、10月になり、銀行もNYの町も、前に進むためにも「追悼ミサ」を実施する。

必死の思いで救助されていたが… Photo by Getty Images

20年前のことを決して忘れてはならないと、それから20年のことを晴美さんが伝える連載第5回は、子供たちのことをお伝えする。前編では、3歳の長男で、陽一さんが「逃げている」と信じている太一くんに、現状を伝えた日のことをお伝えした。その後編では、話を聞いた後の太一くんの行動や、1歳の力斗くんのこと、そしてふたりと新たに生まれる赤ちゃんも育てなければならない晴美さんの「覚悟」についてお届けする。

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星になった父への、太一の手紙

それから何週間かたったある日、彼はある手紙をしたため封筒につめ、窓ぎわに置いた。
「ちょっとー、なにこれ、なんなのよ。こんなところに封筒置いちゃだめじゃん」
と大声で怒鳴ったわたしに返ってきた答えは、
「ぶーちゃにお手紙書いたんだよ」
やはり、やたらと叱り飛ばすものではない。子供は子供なりに考えて行動しているのだ。その後こっそり手紙を引き出しの中にしまっておいた。中身をわたしは見ていない。あくまで、夫宛ての手紙。プライバシーの侵害はしたくない。

「ない、ない、ぶーちゃの手紙がなくなってるよ。おかあさん!」

しばらくして消えた手紙に大騒ぎしている太一に、
「へー、じゃあぶーちゃがお空から取りにきて、またお空に持って帰ったんでしょ」
「そっか」
うれしそうに、そして満足げにほほ笑む太一の顔を見て、なんだかぽっと心の中に温かい火がともったような気持ちになった。

陽一さんはよく子供たちに絵本を読んでいた 写真提供/杉山晴美