10代の頃は、心の中に鬼がいた

心の奥底で、鬼が暴れていた。10代の頃のことだ。自分の中にある醜い部分――人を羨んだり、憎んだり、置かれている状況を呪ったり。抱けば抱くほど袋小路にハマっていく負の感情を、どうしても抱いてしまっている自分がいた。

「当時は、うまくいかないことや思い通りにならないことがあると、それを人や世の中のせいにしてばかりいました。歌舞伎役者として表現活動をする上で、その負の感情がある種のエネルギーになっていたことは間違いないのですが、『思うようにいかなかった、でも俺は悪くない』と思っていると、いつまでたっても状況が好転していかないんです」

-AD-

あるとき、黙々と自分の表現に向き合いながら高みを目指している先輩方の背中を見て、はたと気づいた。「表現の世界は、すべてが自己責任なんだ」と。「結局、俺たちはひとりぼっち同士なんだぞ」と、先輩の背中が語りかけているように感じた。

「そのとき、『そうか、俺は自分で変わらないといけないのか』と思った。うまくいかないのは人のせいではない。自分のせいだ。湧き上がる苛立ちや怒りを自分に向ければ、それを表現に昇華させることができるんじゃないか、と。そうやって、たぶん20歳ぐらいのときに、醜い感情をエネルギーに変換させる術を覚えた。以来、徐々に心は健康になっていきました(笑)」

ところが、メディア露出も増え、バラエティなどで、「歌舞伎界のプリンス」と紹介されることが多くなると、ふと「心を健やかにする努力をしないまま生きていたら、俺はどうなっていただろう?」という疑問が、頭をもたげるようになった。美しいものに触れる機会が圧倒的に多い中、見た人の心がヒリヒリと痛むような、嫌な気持ちになるような作品があったとしたら? それもまた痛快なエンタテインメントではないのだろうか、と。

(C)GEKKO
尾上右近Profile
1992年生まれ。7歳のときに歌舞伎座「舞鶴雪月花」の松虫で初舞台。2005年、2代目尾上右近を襲名、七代目尾上菊五郎の膝元で修行を積む。2017年「スーパー歌舞伎llワンピース」上演中に主人公・ルフィ役の市川猿之助が負傷し、翌日より代役を務めた。18年、名取式にて清元栄寿太夫を襲名。歌舞伎のみならず大河ドラマ「青天を衝け」、バラエティ、ラジオ、現代劇など多方面に活躍。「めざまし8」スペシャルキャスター。出演映画「燃えよ剣」は10月15日公開。