京都の人々が信じる「蘇民将来伝説」

祇園祭の締めは7月31日。疫神社で夏越祭が行われる。疫病退散で知られる疫神社は、八坂神社境内の中、西楼門から入ってすぐの正面にある。祀られているのは、蘇民将来だ。

蘇民将来を祀る疫神社。コロナ禍の今年は7月1日から茅の輪が設置されている。撮影/秋尾沙戸子

鳥居に大きな茅の輪が設置され、そこを潜りながら参拝した後、この日だけ授かる茅(ちがや)を丸めて人々は輪を作る。この輪に「蘇民将来子孫也」と書いた護符をつけて玄関に掲げれば、疫病から守られると信じられているからだ。祇園祭の間、山鉾町で授与される粽にも、「蘇民将来子孫也」とどこかに書かれている。茅の輪と粽、ルーツは同じなのだ。

蘇民将来とは、旅に出た素戔嗚尊に宿を提供した人物である。貧しいながらも狭い家に泊めて、粟でもてなした。他方、裕福で立派な家を持ちながら意地悪な弟は、素戔嗚尊の申し出を断ったのだった。素戔嗚尊は蘇民将来に告げる。後に疫病が流行るが、蘇民将来の子孫であると言い、腰に茅の輪を巻けば救われる。実際、疫病が蔓延し、意地悪な弟はもちろん、すべての者が病死。蘇民将来の一族だけが生き残り、繁栄した(詳しくは前回のコラムチェック!)。

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金儲けや経済発展にばかり邁進してきた現代人――。新型コロナウィルスを神が与えた罰だと仮定すれば、蘇民将来伝説は雄弁である。私たちはいまこそ子孫として蘇民将来を見習うべきだ。日ごろから我欲を捨てて謙虚に生き、他人を思いやり、神仏に感謝を捧げること。結果、どんなウィルスが蔓延しても生き残れるはずである。素戔嗚尊はそう約束されたのだから。

コロナ禍の昨年は祇園祭のほとんどの行事が中止となり、多くの人々は、夏が感じられない、体内時計の調子が悪い、と嘆いた。それほど祇園祭が深く刻み込まれているということだ。今年も祭の形を一時的に変えざるを得ないのだが、しかし、京都の人々は蘇民将来伝説を信じて、祇園祭を次世代へと繋いでいくのである。

illustration/東村アキコ

文/秋尾沙戸子
名古屋生まれ、東京育ち、のち京都暮らし。サントリー宣伝部を経て、NHK「ナイトジャーナル」キャスターや情報番組コメンテーターとして活躍。著書に『ワシントンハイツ:GHQが東京に刻んだ戦後』(新潮文庫、第58回日本エッセイスト・クラブ賞)、『運命の長女』(第12回アジア・太平洋賞特別賞)、『スウィング・ジャパン』『渋谷の秘密』など。

イラスト/東村アキコ
1975年生まれ。漫画家。宮崎県出身。1999年『ぶ~けデラックス』NEW YEAR増刊にて『フルーツこうもり』でデビュー。『ひまわりっ~健一レジェンド?』『ママはテンパリスト』、『海月姫』(第34回講談社漫画賞少女部門受賞)、『かくかくしかじか』(第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞)、『東京タラレバ娘』『美食探偵 明智五郎』『雪花の虎』ほか、ヒット作多数。『講談社「Kiss」にて「東京タラレバ娘シーズン2」連載中!
 

連載【アキオとアキコの京都女磨き
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