「神々に守られている」と実感する瞬間

夕方、八坂神社の西楼門下に3基の神輿が集結する。神輿に遷られたのは、八坂神社で祀られている素戔嗚尊(すさのをのみこと)、妻の櫛稲田姫(くしいなだひめ)、8人の子どもたちだ。通常なら私たち人間が鴨川を渡って八坂神社に赴いて参拝するところを、神々が神輿に乗って氏子が暮らす地域へ出張して、氏子に加護を授けるのである。人々は心底それを有難いと感じ、目の前を通る神輿に手を合わせる。

馬に乗ったまま神社境内に入ることが許されている稚児。首から下げているのは木彫りの馬の頭(駒形)。綾戸國中神社のご神体。撮影/秋尾沙戸子

3基の神輿を先導するのは、ご神宝を持った宮本組(筆頭氏子組織)の旦那衆(主に祇園商店街店主たち)。そして馬にまたがる久世駒形稚児である。その稚児は京都駅から西南にある綾戸國中神社から来ている。素戔嗚尊の荒魂(あらみたま)を祀る神社で、この稚児は、馬に乗ったまま八坂神社境内に乗り入れることが許される特別な存在だ。

氏子地域を巡る神輿は四条烏丸の交差点でも差し上げられる。撮影/秋尾沙戸子

コロナ禍の令和2年、神輿渡御は中止となった。神輿は重い。およそ2トン。象1頭分に匹敵する。そこまで重い神輿を担ぐのに大勢の男たちが活躍するのだが、担ぎ手同士の距離があまりに近く「密」なのである。中止せざるを得ない。しかし、氏子たちは神々に手を合わせたい。そんな思いを汲んで、神籬(ひもろぎ、大きな榊のこと)に神々を遷し、白馬に乗せて御旅所に向かった。その決断にいたるまでの宮本組と神職の逡巡はNHKの番組「祇園の神さん」に描かれているので、アーカイブでご覧いただきたい。

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町の中の御旅所で1週間の滞在された神々を乗せた3基の神輿は、24日夜、再び氏子地域を巡り、八坂神社に戻る。日付が変わる24時までに神輿が次々と八坂神社に戻ってくる様子は、実にドラマティックだ。およそ2トンを担いで歩いた男たちの高揚感と、境内で待ち受けていた人々の思いがひとつになる。そして境内がいきなり真っ暗になって、和琴の音色の中、厳かに神々が本殿に遷される。この時、なんとなく神々の気配が感じられ、感謝の念があふれてくる。自分たちは神々に守られている。そう感じられる瞬間でもある。