死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

カオスのような「死後の世界」
奥野 修司 プロフィール

「納得できない」霊との対話

「苦しくないか? 私の言う意味がわかるか?」と金田住職。

「わからない、暗い……」

津波に吞まれて海中にとどまっているのだろうか。

 

「ここはどこだ? 俺は死んだのか?」と男は矢継ぎ早に尋ねる。

「あなたは死んでいる」

「そんなはずはない! 俺には体がある、手足がある。ワカナを迎えに行かせろ!」

「その体はあなたの体ではない。その体から出て行きなさい」

「うるせえ! ワカナはどうなった? 死んだのか? 生きてるのか?」

金田住職はじっと聞いていた。男は「俺を迎えに行かせろ」と何度もしつこく言った。

それを聞いていた高村さんは、溺死体験でぐったりしていたせいか、一時は自分の体をくれてやろうかと思うほど投げやりになっていたという。そこへ、金田住職の毅然と言い切る声が聞こえてきた。

「あなたは死んでいるのだ!」

男は黙った。

「他にもたくさんの人が死んだのだ」

「本当に死んだのか? じゃ、今こうやって話しているのは何だ!」

そんな押し問答が続いたあと、男はようやく観念したかのように声を落とし、「俺はやはり死んだのか? 津波で? 他に何人死んだのだ?」と弱々しく尋ねた。

金田住職が「2万人が死んだ」と言うと、男は「なに2万人⁉ そ、そんなに死んだのか」と絶句したあと、「俺のワカナはどうなった?」とすがるように言った。

「わからない」

「俺はそれさえも知ることができないのか」

「そうだ、受け入れなさい!」

男はそれを聞くと号泣した。「なんでだよ、俺を行かせろよ! 娘を迎えに行かなきゃいけないんだ。この体があるなら行けるだろう! ああぁぁ〜」と、あたりかまわず悲愴な声を上げたが、もう以前の勢いはなかった。

儀式が行われた通大寺の本堂

「親ならわかるだろう。この人(高村さんのこと)にも親がいるんだ。自分の娘がこんなことになったと知ったら、どんな気持ちになる? あなたも親なら、わかるだろ? この人を親の元へ返しなさい」

男はただただ「わあぁぁ〜」と泣き続けた。

住職から、光の世界に導くと言われたのだろう。泣くだけ泣いたらおとなしくなり、諦めたようにその場に正座する姿が見えたと彼女は言う。

「納得」ではなく「諦め」

「この人は、娘のところに行けるから納得したというわけではないのですね」と僕が尋ねると、「全く納得していません」と高村さんは言った。

死に臨んだ時、死を覚悟できるかどうかは「納得」できたかどうかだといわれるが、大半は「諦め」なのかもしれない。がんで死に逝く人を見ても、死ぬのは嫌だ嫌だと死を受け入れようとしなかったのに、体力が奪われていくにつれて、最後は生に執着する力も消えて諦めの境地に入っていく。そんな状態だったのかもしれない。

「受け入れるしかなかったのでしょうね。津波から1年も経っていることや、自分が死んでいることを知って、『あなたも親なら』と言われたら、やはり諦めて受け入れるしかなかったのだと思います」

高村さんは言った。とはいえ、金田住職から、「あなたは死んでいるのだから受け入れなさい」と言われ、霊が、まるで裁判官に判決を言い渡されたかのように、この世への執着を捨てて光の世界に行こうとするのが不思議だった。東北では、まだ僧侶に対する敬意の念が薄れていないということなのだろうか。

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