死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

カオスのような「死後の世界」
奥野 修司 プロフィール

もちろんこれは彼女の視点からのストーリーであって、金田住職とは時間軸も空間軸も違っているそうだから、2人が見た世界は異なっていたはずだが、ここでは高村さんの体験を中心に物語をすすめる。

 

わたしが溺れて死ぬと、少し経ってからわたしの体に別の魂が入りました。そしてわたしの魂が追い出されたのです。肉体を失うと、真っ先に何を失うかというと、声を失うんです」

見たり聞いたりはできるが、自らしゃべることができなくなるのだという。

「死者の霊が憑依するには、(高村さんが)死ぬことが必要なんですか?」

「おにぎりが食べたいと言った男の子の場合は、そういう体験は一切ありませんでした。ある人とない人の違いは……、わかりませんね」

「死後の世界」の身近さ

憑依が完了したのだろう。それまでの荒々しかった呼吸が落ち着いたと思うと、突然、本堂中に響くような野太い男の声で叫び始めた。

「ワカナ! ワカナぁぁ〜〜!」

その叫び声は彼女にも聞こえていたが、溺死体験の後だからフラフラで集中できず、ただ見ているだけで精一杯だったと高村さんは言った。

3・11の後、金田住職は他の宗教者らとともに三陸海岸を行脚した

「口の中に入った泥や砂を吐き出したくって、何度も空えずきを繰り返していました。耳や目にも泥が入っていて、そのうえ冷たくて重たくて、今にも死にそうでした。いや、わたしは溺死したんでしたね。死後の世界はあると知っていましたが、こんな近くにあったのかと驚きました

死後の世界で溺死とは理解しかねたが、もう一つわからないことがあった。

「こんな近くにあった? どういう意味ですか?」

「昔からわたしは、亡くなった方たちの魂と共存しているのが当たり前だったので、死後の世界はないと思っていたのです。だって死者がそばにいるわけですから。つまり、死後の世界というのはなくて、単純に肉体を失った人がこの世にいて共存していると思っていました。ところが、亡くなり方によっては……、たとえば自殺するとか、殺されたとか、何らかの理由で亡くなった方たちがとどまる死後の世界があることに気づいたのです」

「どういう世界なのですか?」

ひと言でいうとカオス的な世界でしょうか。『あいまいな世界』のことです。自分の死を受け入れてない人、殺されて血を垂らしている人、自殺した人、死刑になった人……、血まみれの子供もいました。あまり思い出したくない場所ですね。理由があるとはいえ、そういう世界に来るしかなかった人たちもいるんですね。それまで、そういう場所とつながったことがなかったので、こんな近いところにあったのかと驚いたのです」

「その時の高村さんも、その死後の世界にいたというわけですね」

「そうです。寒くて寒くて、全身が濡れていました。服は濡れて重く、体も鉛のように重たかった。何が起きたのかわかりませんでしたが、なぜかこれからも同じことが続くんだと思いました」という。魂が寒いと感じるというのが、僕にはちょっと意外だった。重いというのも不思議だ。死後の世界に行っても重力があるのだろうかと思ったが、慌てて頭の中から思考のかけらを消した。

いずれにしろ、彼女にすれば、これをとば口にして震災の霊たちが次々とやってくるという、そんな予感でいっぱいだったのだ。

そして、それは現実になった。

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