死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

カオスのような「死後の世界」
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が、今もひっそりと行われている。震災後、30名を超える霊に憑かれた20代の女性・高村英さんと、その魂を死者が行くべき場所に送った金田諦應住職。彼女の憑依体験から除霊の儀式まで、一部始終を取材した大宅賞作家・奥野修司氏が、このたび単行本『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』を上梓した。今回は、高村さんの「憑依」体験の一つを紹介する。
 

兵隊の「除霊」が終わると、また次の霊が……

高村さんはといえば、読経が終わった頃からすでに体に異変が起きていた。下半身がない兵隊が彼女の体から出て行ったのと入れ替わるようにして、別の霊が彼女の体に侵入しようとしていたのだ。憑依されて体を乗っ取られないようにと必死に抵抗していたが、もう無理だとわかると、金田住職に向かって「次の人が出てきます!」と叫んだ。

儀式が終わったのだから帰るものと思っていた金田住職らは、一瞬何が起こったのかわからず、茫然としていた。

事前に聞いていなかったから、これは予想外の展開だった。

「震災関係で亡くなった人かと思います。お願いします。出します!」

ゆっくりと説明している余裕はなかった。

映画館で映画を見終わって、さぁ帰ろうと立ち上がったら、突然、新たな映画が始まったようなものだと、彼女は言う。

「兵隊さんを送り出して、自分の魂を体に戻してホッとしたと思ったら、いきなりでした。体を鷲摑みにされて、ベリベリと剝がされるような感覚というか、強い力でドンと押されて心臓が飛び出したような衝撃というか……」

金田住職は、誰が出てくるのかわからず、慎重に見守った。そうしているうちに、彼女は意識を失ったかと思うと、断末魔のような声を上げて喉元をかきむしったり、畳の上をのたうち回ったりし始めた。息苦しいのか何度も咳き込み、よだれを垂れ流していた。何かを吐き出そうとしているらしく、何度もえずいた。

金田諦應住職

死者の「死」を追体験する

住職は彼女の肩を摑むと、「英ちゃん、大丈夫か!」と、住職夫人とかわるがわる声をかけながら、必死に状況を把握しようとしていた。

彼女は溺れかけていたのだ。もちろん実際に溺れていたわけではないが……。

「突然でした。口の中、耳の中、穴という穴に泥水が入ってきたんです。息ができないどころか、吐き出すこともできない。周囲は真っ暗な水の中で、最初は水の中にいることさえもわかりませんでした。突然、わたしが地上から瞬間移動したみたいに、水の中で溺れているんです。自分に何が起きているのかわからなくて、とにかく必死に手足をばたつかせていました。あれが、初めての溺死体験でした」と高村さんは言う。

「憑依されたら、いきなり水の中ですか? それも溺死中?」

「ええ、溺れているところからのスタートでした。皆さん(津波による死者の霊)、何が起きたのかわからないうちに死んでいるので、亡くなる寸前の場所からスタートしたり、いちばん印象に残っている場面からスタートしたりします。人によって違うんです。この方(高村さんに憑依した霊)は、自分が死んだこともわからない状態だったので、溺れ死ぬところからスタートしたようです」

憑依した霊は津波に吞み込まれたのだろう。死者の霊とリンクする彼女も、同じように津波に吞まれて溺死する場面で幕が上がったのだ。

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