韓国へのヘイトのフタを開けたのは、あの歴史的瞬間だった

この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体3
青木 理, 安田 浩一

「嫌いなコメンテーター」3位に

青木 そして2006年には第一次安倍政権も発足している。政治レベルの動きとヘイト団体の誕生、そして出版界におけるヘイト本隆盛の萌芽といったものが、2002年あたりを起点にすべてはじまっている

その第一次安倍政権はわずか1年ほどで自壊しますが、2012年に再び執権すると今度は長期政権として君臨し、ことあるごとに持ち出してきたのが「北朝鮮の脅威」でした。それは2015年の安保関連法制を強行する理屈づけにも使われた。森友・加計学園問題が批判されていた2017年、強引な解散総選挙に打って出た際の大義名分もそう。「北朝鮮の脅威」を「国難」と称し、「国難突破解散」なのだと言い張って。

青木理氏 撮影/西崎進也

また、歴史修正主義的な姿勢があらわな政権下で日韓関係も急速に悪化の一途をたどっていきました。韓国政府の姿勢や対応にも問題は多々ありますが、悪化する韓国との政治的対立をメディアも面白おかしく煽り立て、市民社会にもたしかに韓国への嫌悪や憎悪がかなり広範に浸透してきてしまっている。

これは完全に余談ですが、『週刊文春』が読者アンケートなどをもとに「好きなキャスター&コメンテーター」とか「嫌いなキャスター&コメンテーター」という企画を時おりやっていて、2年ほど前のことですが、僕が「嫌いなキャスター&コメンテーター」部門で堂々3位になった(笑)。その時の1位が宮根誠司、2位が立川志らく、そして3位が僕。僕以外の2人は帯番組で司会を務め、毎日何時間もテレビに出ていますが、僕なんてせいぜい週に一度か二度、単なるコメンテーターとして出ているだけです。

 

なのになぜ3位に入ったか文春の知人に聞いたら、圧倒的に多かったのが韓国がらみのコメントへの反発だそうです。「韓国の回し者」とか「韓国の代弁者」といった批判が多く、これもちょうど日韓の対立が深まっていた時期でしたから、韓国叩きのコメントが溢れかえるなか、韓国駐在経験のある僕が韓国側の訴えや想いに言及したのが目立ったということでしょう。

なかでも猛烈な批判を浴びたのが、2019年にソウルで起きた日本人女性への暴行事件に関するコメントでした。たまたま僕が出演していた「羽鳥慎一モーニングショー」で取りあげたので、僕はおおむねこんな発言をしました。「本来ならメディアが報じないような事件が大きく報じられ、それによって日本側の反発が煽られて韓国も反応し、日韓関係がますます悪化していくのは悪循環だ」と。

これにものすごい非難があったらしく、テレビ局にも抗議がたくさんきたようです。「日本人女性が被害を受けたのに、お前はそれを大したニュースじゃない、報じるに値しないと言うのか」と。

もちろん被害者の女性は本当にお気の毒だし、暴行した男の行為は言語道断の犯罪です。こうした事件が起きてしまったのは、韓国内で日本への反発が強まっている証左かもしれません。ただ、本来ならメディアが大きなニュースとして報じる事件ではないのも事実です。世界各地に暮らしたり旅したりする日本人はたくさんいて、不幸にもこうした目に遭ってしまうケースは起きる。もちろん大怪我をしたり亡くなったり、特殊な犯罪に巻き込まれたら別ですが、世界中で起きるこの程度の事件をすべて報じていたらキリがない。逆に言えば、日韓関係が悪化しているときだからニュースとして扱われるわけで、こうした事件が相互の憎悪や反発を増幅させるのはまさに悪循環です

いずれにせよ、そんなコメントなどが原因で僕が「嫌いなキャスター&コメンテーター」の3位になった。そんなことはどうでもいいんですが、時の政権が隣国との対立を煽ってその支持者や応援団がヘイト言説を撒き散らし、メディアまでがそれに追随していってしまうと、仮に『WiLL』や『Hanada』を買って喜んで読んでいる連中などは少数派でも、一般社会にも嫌韓ムードがうっすらと広がってしまう。それは決して侮れないし、大変に危険な兆候だと思います。

安田 たしかにそのとおりです。雑誌を買わなくても、中吊り広告に煽られる人もいますからね。ところで、青木さんがおっしゃった、日本人の女性が韓国人に暴行されたというのは、たしかホンデ(弘大)でナンパしにきた男からでしたっけ。

青木 そうですね。芸術系大学のキャンパスがあるホンデあたりは、日本でいうと原宿のような街ですが、そこに観光で訪れていた日本人の若い女性が韓国人の男に声をかけられた。どうやら男は酔っていたらしく、無視されて腹を立てたのか、女性に絡みついて暴力を振るった、そんな事件でした。

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