妊娠4ヵ月といえば、つわりがひどくさえなければ、フットワーク軽く動ける妊婦もいるような時期だ。とはいえ、過度のストレスや疲労が禁物であることには変わりはない。

2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロで、杉山晴美さんの夫・陽一さんが勤務するワールドトレードセンターが飛行機に襲撃された。朝8時46分に1ワールドと呼ばれるノースタワーにハイジャックされた飛行機が突入、そして9時3分、陽一さんが勤務するサウスタワー(2ワールド)に飛行機が突入し、陽一さんは行方不明となってしまった。晴美さんは当時、3歳と1歳の息子たちの世話をしながら、3人目の子供をお腹に宿していた。そのまま病院をめぐり、陽一さんを探し続けていた。陽一さんのご両親と晴美さんの母親も日本からかけつけ、晴美さんが全員を元気づけるほどだった。

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それから20年経つ今年、晴美さんの著書『天に昇った命、地に舞い降りた命』の再編集と書下ろしにより、晴美さんがあの日から今までを伝える連載の3回目は、動き続けていた晴美さんの身体に異変が起きた時のことをお伝えする。

杉山晴美さん連載「あの日から20年」今までの連載はこちら
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ダムが決壊したかのごとく出血

【9月17日】

9月17日の朝、その日も病院の捜索に出かけようとあわただしく身支度をしていたその時、ダムが決壊したかのごとく、出血してしまった。

元気なつもりでも、お腹の中はコントロール不可能。妊娠とはもともと、とてもナイーブなもの。こんな非常時には最も弱い部分にツケがくる。3人目ともなればもっとわかっていそうなもの。しかし、3人目だからこそ普通でも妊娠を甘くみてしまっていた。後悔した。

「あー、わたしのせい、わたしのせい、ごめんね、ごめんね」

半べそをかき、ひとりでうわごとのように呟きながらも、落ち着け、落ち着け、まずはどうしたらいいんだっけ……頭の中はぐるぐるしていた。結局、かかっているドクターに電話で相談したところ、救急車で大きな病院へ行けとの指示をうけた。

迎えに来た救急車にひとり乗り込み、病院へ向かった。もしかしたらこの救急車に夫が乗っていたのでは? そんな思いが頭をよぎった。夫でなくても、あの日、テロ事件に巻き込まれた人々が乗ったことだけは間違いない。

ニューヨークの病院がいっぱいになり、わたしの向かっているニュージャージーのイングルウッド病院にもけが人が搬送されたことは、病院周りのリストを見て知っていた。

妊娠4ヵ月はまだお腹もさほど大きくはなっておらず、安定期に入って無理をしがちな時期でもある(写真はイメージです) Photo by iStock