撮影/西崎進也

「税金を使って〇〇するなんて」のひと言で簡単に「反日」になる日本人

この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体1
「匿名の悪意」の被害はもう止められないのか?
ネットに吹き荒れる誹謗中傷、国民を見殺しにする政府や権力者、強気を助け弱気を挫くメディアの病巣、日本の歪な現実の病巣を、いまもっとも硬派な論客、青木理氏(ジャーナリスト)と安田浩一氏(ノンフィクションライター)が語り尽くした+α新書『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』から、短期集中連載!

政府の思惑が露見した学術会議問題

安田 菅政権に対する一つの大きな批判は、日本学術会議の新会員任命拒否の問題がありましたよね。あれは安倍政権のときにある程度決まっていた話でしょう、おそらくは。

青木 そうでしょう。実際、学術会議の人事にちょっかいを出したのは安倍政権からです。当時も主導していたのは菅官房長官だったでしょうが、内閣人事局を通じて官僚幹部人事を牛耳った政権は、ついに検察トップ人事にまで介入を謀って大問題になった。最終的にこれは失敗したわけですが、内閣法制局長官や日銀総裁、果てはNHKの会長や経営委員会などに至るまで、戦後の歴代政権がかろうじて自制してきた人事権を放埒に行使したのは前政権からの特徴です。その放埒さが検察や学術会議にまで及んだととらえるべきでしょう。

安倍晋三元総理(左)と菅義偉総理 Photo by GettyImages

安田 国のカネを使うにあたっては、政権に批判的な人間には基本的に渡さないという強い意志が、たとえばあいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展」のころから顕わになっていますよね。あれは一つのきっかけだった気がするし、それ以前の安倍政権の時代から、補助金あるいは国のカネが出ている以上は国のコントロール下に置きたいという思惑がずっとあったと思います。

気になるのはいま、日本学術会議を叩いているのは保守系、右派系、あるいは自称愛国者の人々じゃないですか。それら勢力からは「学匪」とまで言われている。

僕は学問の自由とか言う前に、政権にとって気に入らないものには、政権がカネを出す以上は口を挟ませない、あるいは批判的な立場は、その存在すら許さない――そういう強い意志みたいなものが、安倍政権以来、連綿と続いている気がするんですよ。

異端排除の独裁手法

青木 同感です。政権が任命拒否のターゲットにした6人の言説すべてに目を通しているわけではありませんが、たとえば加藤陽子さんや宇野重規さんの言説はごく穏当であって、現在の歴史学や政治学の世界ではいずれも主流とされる学者です。

 

安田 一時期は国家とのスタンスや歴史認識をめぐって左派からも批判されていたこともある人たちですよね。

青木 そんな学者が政権の不透明な恣意で学術会議から排除され、政権応援団が学術会議に盛んな攻撃や罵声を浴びせている。とくに悪質なのは任命拒否の理由を説明しない政権の態度です。まさにそれが政権の狙いなのかもしれませんが、本当の理由がわからないから過剰な忖度が広がりかねない。

安田さんも指摘されたように、これは安倍政権から一貫して流れる性癖ですが、とにかく自分たちにまつろわぬ者は許さない。徹底的に冷や飯を食らわせ、時には平然と叩きつぶそうとする。

その結果、官僚組織には忖度や萎縮が広がり、たとえば財務省では公文書改竄なども起きてしまったわけです。

官僚を擁護するつもりなどありませんが、官僚組織とは本来、それぞれの専門分野における知見やデータを蓄積した“日本最大のシンクタンク”でもあります。だから時の政権の意向とは異なっても手元の知見やデータをあますところなく示し、それに基づいて右に行くか左に行くか決めるのが本来の政治主導だというのに、異論を唱えただけで左遷されれば、官僚は現場の知見やデータを示さず、さらにはそれを政治の意向に合わせてゆがめてしまう

その悪弊が今回は学術界にも広がりかねない。学者だって世俗の欲を持った人の子です。各種の勲章や学術会議のメンバーなどに選ばれることを名誉と考える者もたくさんいる。ならば忖度しますよ。萎縮もするでしょう。まして任命拒否の理由すら示されなければ、さらに広い範囲で自粛や萎縮、忖度が広がってしまいかねない。

安田さんが指摘していた研究費などの問題はもっと直截でシビアです。政府の意向に沿わない研究におカネがつかず、バッシングまで浴びるなら、そんな研究は避けられていく。時の政権にとっては都合が良くても、これでは学術界にも忖度や萎縮が広がり、思いもよらぬイノベーションや社会発展は阻害され、社会はシュリンク(萎縮)していくだけです。中長期的には政治や社会の土台を腐らせていく。

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