みんなの大疑問!日本のコロナワクチン開発はなぜ遅れたのか?

掘り下げてわかった残念すぎるその理由

2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、世界各国をいっせいに襲ったために、各国が抱える課題を炙り出すと同時に、各国間の科学力の対比をも容易にした。とりわけ欧米諸国では複数のワクチンが数ヵ月で完成したのに対し、日本のワクチン開発は完全に出遅れた。

「科学技術立国」を標榜していたはずの日本に、いったい何が起きたのか。

背景を取材して見えてきた課題から、今後の改善策を探る──。

先進7ヵ国で最下位

世界では、ファイザーやモデルナ、アストラゼネカなどによる新型コロナウイルスワクチンの接種が進み、それに呼応するように感染者数が激減した。6月上旬までに国民の4割が接種を終えた米国では、現金給付を柱とした政府の経済対策ともあいまって、経済回復のペースが加速している。

接種率が米国とほぼ同程度の英国では、インド変異株による感染拡大が懸念されてはいるものの、死者数には目立った増加傾向は見られない。国際通貨基金(IMF)が4月に公表した「世界経済見通し(World Economic Outlook)」によれば、GDP成長率のトップは英国で、先進7ヵ国(G7)中の最下位は──、日本である。

その日本でも、海外からの輸入ワクチンの接種が進みつつあるが、国産ワクチンについては6月末現在、最も早いものでも最終段階の臨床試験中という状況だ。

科学技術立国を標榜していたはずの日本がなぜ、即座に自国産ワクチンを国民に供給できない状況に陥ったのか?

そして、このことから学ぶべき教訓はいったい何だろうか?

【写真】ワクチン製造自国産ワクチンを国民に供給できないのはなぜか? photo by gettyimages

「ワクチンは儲からない」

すでに多くの論者が指摘していて繰り返しになるため、くどくどとは述べないが、国の感染症に対する備えが不十分だったことが最大の原因であることは指摘せざるを得ない。

じつは、「ワクチンは儲からない」というのが、かねて製薬業界の常識となっている。したがって、どの国であっても、感染症ワクチンへの資金投入は、リスクを引き受けられる政府でなければできない仕事である。

長く外資系の大手製薬会社の日本法人で開発責任者を務めた経験をもつ山梨大学副学長の岩崎甫(いわさき・まさる)さんは次のように話す。

「感染症というのはふしぎなもので、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)がそうだったように、突然、まるでオバケのように消えてしまうこともあるんです。そのため、感染症ワクチンは、流行から終息までの正確な需要量を見通すことができません。加えて、市場での寡占性が高く、ハイリスクでもあります。安全性が高くて効果も高いワクチンがいったんできてしまえば、後発品をあえて使う必要はないわけですから。

後発品では、臨床試験に参加する人を募るのも難しくなり、余計に費用がかかります。研究開発や臨床試験、生産にかかる莫大な費用を、一民間企業である製薬会社が単独で負担することは不可能なんです」

岩崎さんは現在、国の医学研究のファンディング機関である日本医療研究開発機構(以下、AMED:https://www.amed.go.jp)で、専門家の立場から予算配分された医療研究の課題を把握したり、関係者間を調整したりするプログラムディレクター(PD)も務めている。

AMEDは、首相をトップとして内閣に設置された健康・医療戦略推進本部が司令塔となり、関係省庁(厚生労働省、文部科学省、経済産業省、総務省)と決めた医療研究プログラムの予算(年間約1400億円)を執行(研究者への公募、採択、進捗管理、調整)する実行部隊である。

「国家としての危機意識」の欠如

SARSやMERSの流行を受けて、日本でも将来必ず発生すると見られていた新興感染症に対し、国による備えの重要性が感染症の専門家から指摘されていた。にもかかわらず、政府はムダ金になるリスクを嫌ったのか、子宮頸がんワクチンなどに関係する訴訟が影響したのか、ワクチンの研究開発には小規模な予算しかつけていなかった。

日本とは対照的に、米国、英国、中国、ロシアはワクチン開発を「国の安全保障の柱」と位置づけ、欧米では少なくとも数千億円規模の予算を投入して着々と研究開発を進めていた。

彼我の差は、国家としての危機管理意識の違いというしかない。パンデミックやバイオテロへの備えとして、世界ではワクチンが安全保障上のカギになると認識され、国を挙げて準備が進められていたのである。

日本のワクチン開発はなぜ、遅れたのか──。

我々一般人にしていれば、当然このような疑問を抱く。ところが、国内の製薬関係者からは当初、「日本が遅れたのではなく、彼らが異常に速かったというのが正直な感想だ」という声が漏れ聞こえてきた。

米・英・中・露のワクチンに対する迅速な動きは、「専門家も驚くほどだった」というのだ。しかし、以下に示すとおり、その認識こそが、日本が知らないうちにガラパゴス化し、世界に遅れをとっていたことを如実に示しているのである。

どういうことか。

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