その土地の風土や文化を背景に、日本人ならではの器用さと繊細な感性をもって長年受け継がれてきた伝統工芸の世界。先人たちの知恵のもと、現代の暮らしに心地よく寄り添うモダンなプロダクトを生み出す逸材がいます。

「日常的な上質さ」「クラフトマンシップ」、そして「美」。まさに「JAPAN’S AUTHENTIC LUXURY」=「JAXURY(日本が誇るほんもの)」というべきものづくりに挑む、中川木工芸の3代目の中川周士さんを訪ねました。

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すべての人がそれぞれに持つべき美意識を
育てていくのが工芸の役割だと思う

工房内のショップスペースは、かんな屑や端材を再利用した美しいウォールアートが印象的。

従来の桶の常識を覆す楕円形の形とシャープな口縁のシャンパンクーラーの作家として知られる、京都の桶指物の工房・中川木工芸の3代目の中川周士さん。20年近く前から琵琶湖の湖西、比良の地で制作を続けている。

中川周士さん。過去にはnendoや杉本博司さんとのコラボレーションも。

「ものづくりのインスピレーションは自然から得られるもの。学生時代によく登っていた比良山の麓を、工房の場所に選びました。ローカルな土地ならではの人と人との交流もあり、豊かな心を育むにはいいところです」

曲線が優美なスツール。座面から下は桶型なので軽く、座り心地も秀逸。
こちらはなんと、湯豆腐専用の桶。

かつては現代アート作家としても活動。アートと伝統的な木工芸を融合して生まれるモダンで洗練された作品の数々は、美と実用性を備えた定番品として海外からも注目を集める。

かんな屑。廃棄されるものに美を見出した一例。

「アーティストと職人は実は対極にあり、前者は個性を最大限に発揮するのに対し、後者には個性の表現は不要。でもその異なる二つの目線を持つことで、見える世界が広がるんです」

木そのものの形や触感を生かした新シリーズ。一期一会のアンコントローラブルな美が宿る。

広がった先に浮かんできたのは、「木地の美しさを前面に出す」という新たなアプローチ。木材の個性を読み解き瀟洒なプロダクトを作るスタイルと並行し、現在は木それぞれがもつ形や触り心地といった自然界の美をそのまま生かすシリーズの制作も始めている。

工房ではワークショップも開催(通常時)。「ものづくりの達成感は、人間に幸福感を与えるもの。作る、というチャンスを一人でも多くの人に提供できたら」(中川さん)。

「工芸は昔は生活を便利にするためのものでした。テクノロジーが進んだ今は、美意識を育てていくのが役割。他人の価値観に従うのではなく、自分の目で美を見つけ出すという、新しい生き方の提案だと思っています」