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トイレと化す農地 畜産の規模拡大で大量発生したウンコの行方

家畜糞尿問題の構造と実態
畜舎から流れ出た糞が河川に入り、下流の魚を死滅させる。農地が家畜糞尿の捨て場と化す――。糞尿の環境負荷は、牛1頭が人間1人の30倍、ブタ1頭が10倍とされる。全国で発生する家畜糞尿は年間約8000万トン、東京ドームの容量の約75倍だ。畜産業に対する環境規制が年々強められる反面、目を疑うような現場も各地に見られる。畜産は近年の規模拡大と、特定の地域に集中しがちなことにより、糞尿処理が一層難しくなっているのだ。消費者にとっても他人事ではない、糞尿被害の実態を報告する。
 

鶏糞の流出事故で下流の魚が死滅

「この地域では、今から30年くらい前にも、炊飯器のごはんが真っ黒になるくらい、ハエがたかっていたというんです。それを聞くまで、ハエの発生源である養鶏業者を責めるつもりは、あまりなかったんです。でも、長い間問題があったにもかかわらず、放置されてこの状態がずっと続くんじゃ、あまりにも情けないじゃないかと思って改善を求めるようになりました」

 こう語るのは、近くの養鶏場から発生する大量のハエに長年悩まされてきた男性だ。自宅の4畳の部屋でハエを数えたところ、100匹ほどいたこともある。庭でサンマを焼いていたら、写真の通り大量のハエが飛来した。

ハエ取りシートがハエまみれに(上記の男性提供)

 問題の養鶏場は、卵の生産(採卵)のために、最盛期は20万羽以上のニワトリを飼育していた。

「養鶏場がきちんと環境基準を守って、住民とも調和して、しっかり稼いでもらうことが大事なことだと思っていました」

 ところが、男性の期待とは裏腹に、問題はむしろ悪化していく。汚水がしばしば川に流れ出し、田んぼのイネが枯れたこともあった。極めつけは、大雨で大量の鶏糞が流出したことだ。下流の魚が数キロにわたって死滅し、住民は悪臭とハエの大発生に悩まされた。

 養鶏業者は2019年、「長期にわたり周辺住民の方々に迷惑をかけてきた」として廃業を決める。この時点で、4000トンもの処理されていない鶏糞が積み上がっていた。捨てるべき糞の上でニワトリを飼う状態だったらしい。男性は操業中の養鶏場に入ったことがあり、そのときのことを、こう振り返る。

「鶏糞をためる小屋がありましたけど、しっかりしたつくりではなく、あばら家のようで、お金をかけていなかった感じがしますね。鶏糞を乾燥させて堆肥にする施設は、大きな建屋ながら、中はガラガラでした。端の方にベルトコンベアのラインがあって、業者は『これでやるんだ』と言っていましたけど、あまり動いているようには見えなかった」

 仮置き場の小屋には鶏糞が積み上げられ、そこから汚水がにじみ出て、敷地内に溜まっていた(写真下)。採卵養鶏は、畜産の中でも最も規模拡大が進んでいて、コスト競争に不利な小規模業者は廃業に追い込まれる。もともと家族経営だったこの業者は、流れに乗って規模を拡大したものの、卵価の安さに悩まされ、コストのかかる糞尿処理をおざなりにしていたらしい。

左にある鶏糞の仮置き場からにじみ出た水が溜まっていた(上記の男性提供)

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