今西進化論はダーウィンの何を否定したのか

種の自然淘汰と個の遺伝率

懐かしい今西進化論

今西進化論という進化についての考え方がある。今西錦司(いまにし きんじ・1902~1992)という日本の生態学者が提唱したもので、ダーウィンとは異なる平和で主体的な進化論というイメージがあるせいか、今でも一定の人気がある。

かつては、私にとっても、今西進化論は身近な存在だった。高校生のころは、今西の著作を熱心に読んで、その思想に共感していた。そのため、今でも「今西錦司」という名前に出会うと、少し懐かしい気分になる。甘酸っぱいとまでは言わないが、何となく未来が広がっていたころの、ぼんやりした気分が戻ってくる。

今西進化論は、科学的な理論というよりは、思想というべきものかもしれない。今西の思想は広大で、なかなか掴みどころがない印象を受ける。そこで、ここでは、進化に関する部分に限って、話をしよう。今西は強烈に、ダーウィンの自然淘汰説を否定する。そのためには、ダーウィンの自然淘汰説を理解していなくてはならないけれど、私は、今西の理解のしかたには誤解があると思う。

"たまたま"を除けば、平均へ回帰していく

さて、まずは「平均への回帰」と呼ばれる現象を紹介しよう。

一般には、父親の身長が高いと息子の身長も高い傾向がある。しかし、身長が非常に高い父親の息子は、それほど身長が高くない傾向がある。同様に、身長が非常に低い父親の息子は、それほど身長が低くない傾向がある。これが「平均への回帰」と呼ばれる現象である。

【図】平均への回帰

平均への回帰は、2回試験を受けたときにも起きる。1回目の試験で高得点を取った受験生だけを集めて、2回目の試験を受けさせる。すると、2回目の結果は、1回目の結果より低くなる傾向がある。なぜなら、1回目の試験でたまたま高得点を取った受験生が含まれているからだ。

【写真】フランシス・ゴルトン平均への回帰という現象についてはじめて言及したフランシス・ゴルトン(1822-1911)。統計学の分野でも活躍した彼は、チャールズ・ダーウィンのいとこにあたる。ダーウィンとゴルトンについては、こちらの記事も photo by gettyimages

また、オリンピックの出場選手の選考でも、平均への回帰が起きる。最終選考会で成績が良かった選手を選ぶと、本番のオリンピックでは、最終選考会ほどは成績が伸びない傾向があるのだ。オリンピックで成績が伸びないと「本番に弱い」と言われたりするが、それは選手にとって少し気の毒だ。平均への回帰という現象があることも認識する必要があるだろう。

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