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ボガートとバコール、ジョンとウォルター。活劇映画を輝かせた家族たち

「三つ数えろ」と「黄金」の舞台裏
ボギー(ハンフリー・ボガート)とベティ(ローレン・バコール)の伝説的な夫婦、親子でアカデミー賞を受賞した俳優ウォルター・ヒューストンと監督ジョン・ヒューストン。さらに、ロケ先では全員が擬似家族だった――。
巨匠・筒井康隆が、映画全盛期につくり出された活劇映画の魅力と溢れるヒューマニティを痛快に描きつくした新刊『活劇映画と家族』から、活劇映画を輝かせた夫婦と親子について語った箇所を抜粋して公開します!

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運転手は誰に殺されたのか?

そこでホークスは次にレイモンド・チャンドラー原作「大いなる眠り」を「三つ数えろ」として映画化することになる。これとて「マルタの鷹」の大成功に便乗して作られたハードボイルド作品なのだが、「脱出」の時と同様ホークスは二番煎じと言われることなど気にもとめず、独自の娯楽作品を生み出している。

「三つ数えろ」の主演はもちろんボギーとベティである。そしてこの作品からフォークナーとファースマンに加えて、第2章「ハタリ!」で紹介したリイ・ブラケットが脚本に名を連ねている。彼女はここからホークスの一族になり、5本もの脚本を書いた。

「ハタリ!」 の時のエルザ・マルティネリと同様、ホークスも最初リイ・ブラケットを男性だと思っていたらしい。フォークナーが脚本のための相棒を欲しがっていたので彼女を雇ったのだった。

この映画に関して書いておくべきことは、「マルタの鷹」に出たボギー一族というか、むしろヒューストンお気に入りのあのエライシャ・クック・Jrが出演していること、有名過ぎるエピソードとしては、開巻早早に殺された運転手を誰が殺したのか誰にもわからなかったことである。

このテイラーという運転手が失踪したためにボギーのフィリップ・マーロウが事件に首を突っ込むことになるのだが、そもそもは現場で台本を読んでいたボギーがこれに気づき「おい。テイラーを埠頭から突き落としたのは誰なんだ」と言い出したのだが誰にもわからず、ついにはホークスが原作者のチャンドラーに電報で確かめたところやっぱり憶えていず、とうとう映画はそのままで封切られた。

これが話題になり、ある日公園でベティとボートに乗っていたボギーに岸にいた少年が「ヘイ、ボギー。運転手は誰に殺されたんだい」と訊ねるとボギーは「おれの知ったことじゃねえや」と嘯いたそうである。

さらにホークスはこの映画でもベティに事件の黒幕であるエディ・マースの店の場面で一曲歌わせている。ホークスは彼女に「ボルティモア・オリオール」を歌わせるのが夢であったとベティは書いている。

この映画はプロットが「マルタの鷹」以上に込み入っていることで有名だから、ストーリイは省略させて貰おう。

普通の家族に憧れていたボギー

この映画の撮影がほとんど終りかけている頃、ボギーは前妻のメイヨ・メソットとの離婚が成立し、ベティと結婚した。ハンフリー・ボガートとローレン・バコールという伝説的な夫婦の物語がここに始まり、二人は真の家族となった。

ここに到るまでの苦労をベティは自伝に詳しく書いている。メイヨは飲酒癖があり、ボギーとの関係は喧嘩夫婦と言われているほど最悪で、ボギーの親友のピーター・ローレ夫妻は彼らのことをずいぶん心配したという。

まだベティと結婚する前のことだが、ボギーは家族愛に憧れていたらしい。だいたい彼はプレゼントというものを一度も貰ったことがなく、彼の母親は息子を愛することがなかったらしくて、ボギーはメイヨ以前にも2人の女性と離婚している。

そんな時期、ひと晩中飲んでいたボギーは「午前7時に、髭も剃らずに、ひどい顔で、とある通りを歩いていて、通りすがりの家の窓をのぞくと、ひとりの婦人が一家の朝食の仕度をしているところだった。

夜明けのそんな時刻に、窓からのぞきこむボガートの顔を見たときのその主婦の驚きはどんなだったろう。家の主人が戸口に出てきて、入ってコーヒーを一杯飲みませんか、と声をかけてくれた。

そこで彼は、子供たちと一緒に朝食のテーブルについた。子供たちは大喜び、いいひとたちだった――その後二度と会うことのなかったひとたちだったけれども」ということだったそうである。

普通の家族への憧れを抱いていたボギーはベティと結婚し、普通どころか皆が話題にする理想的な家族を持つことになったのだ。

ベティも幸せだったが、しかし映画の仕事としてはジャック・ワーナーの決定で「秘密諜報員」というろくでもない映画に出演させられてみごとに失敗。さんざんな酷評を浴びたものの、先に撮影を終えていた「三つ数えろ」の公開によって名誉を回復する。ホークスという監督でこそ彼女を生かせたのであろう。

もっとも、残念ながらこれ以後ベティがホークスの作品に出演することはなかった。ついでながらベティがジャック・ワーナーの持ち込んできた映画に出演することも、二度となかった。

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