「人から教わる」から「レシピで覚える」へ

料理は愛情とセットで語られることが多いが、果たして家で作る料理に愛情は必須なのだろうか? それは、主婦の歴史と深いかかわりがある。

愛情とセットの歴史を批判的に読み解いたのが、『きょうも料理』(山尾美香、原書房)である。サブタイトルの「お料理番組と主婦 葛藤の歴史」から、メインタイトルの「も」の秀逸な使い方が分かる。同書には、著者自身が1人の主婦として、料理する日々の負担を感じてきた恨みがこもっている。

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同書が取り上げた『きょうの料理』については、私も2017年にテキストで60年の歴史を振り返る連載をしたことから、1年かけてバックナンバー全部を読み込んだ。全体としては、そこまで「愛情」が強調されているようには感じなかったが、テレビが大衆化した1960年代後半には、確かにそうした記述が目立つ。

それはもしかすると、懐石料理店「辻留」のオーナーで二代目、著書も多い辻嘉一さんや、民放でも活躍した田村魚菜さん、辰巳芳子さんの母の辰巳浜子さんなど、特別キャラクターが強い和食の達人が活躍した時代だったことも、影響しているかもしれない。

辰巳浜子さんは「台所入門」シリーズで心構えから教え、その姿は嫁をしつける姑のようだと言われた。田村魚菜さんは「材料を求めることから、下ごしらえから、段取り、味つけ、食べるふんい気から、すべてにわたって配慮の豊かさが欲しいのです」と述べ、家庭料理に失敗は許されないと厳しい。

達人たちが愛情を強調したのは、時代が大きく変わり始めたことを察知したからかもしれない。この頃、教えを受けた世代は、戦中戦後の食糧難を子どもの頃に経験した人たちだ。