世界記録は31兆桁! 日本人も活躍する円周率「π」計算の最先端

『円周率πの世界』5
柳谷 晃 プロフィール

画期的な級数

翌1995年には、カナダのサイモン・フレーザー大学でも、注目される級数が発見されました。デビッド・ベイリーとピーター・ボールウェイン、サイモン・プラウフの研究チームが発見したのは、次の画期的な級数でした。

デビッド・ベイリー、ピーター・ボールウェイン、サイモン・プラウフが発見した画期的な級数


この級数のどこが画期的かというと、この式は2進法または16進法で計算すると、(n-1)桁までを求めなくても、n桁目が求められるのです。10進法のような別の位取り記数法では、この性質をもつ級数は発見されていません。一方で、存在しないということも証明されていない、ふしぎな級数なのです。

πを起点に、このようなふしぎな事実が現れることも、この数のもっている個性の一つなのかもしれません。

そして、この級数がまた、πの近似桁数を伸ばしていきます。

1997年に、金田康正と筑波大学の高橋大介がHITACHI SR2201 と、次に示すボールウェインの4次収束アルゴリズムを使って、515億3960万桁まで計算します。ボールウェインの4次収束アルゴリズムとは、次の式で表されるものです。

π = 176 arctan(1/57) + 28 arctan(1/239)     
- 48 arctan(1/682) + 96 arctan(1/12943)

1兆桁の大台へ

1999年にはさらに、金田康正と高橋大介がHITACHI SR8000 を使って、ガウス-ルジャンドル法

π = 48 arctan(1/49) + 128 arctan(1/57)     
- 20 arctan(1/239) + 48 arctan(1/110443)

で計算し、2061億5843万桁まで求めました。検算には、ボールウェインの4次収束アルゴリズムが用いられています。

2002年には、金田康正がHITACHI SR8000 を用い、神奈川県の高校教諭だった高野喜久雄による公式

π/4 = 12 arctan(1/49) + 32 arctan(1/57)     
- 5 arctan(1/239) + 12 arctan(1/110443)

を使って、1兆2411億桁まで計算しました。

円周率πの桁数追求競争は、ついに1兆桁の大台に到達したのです。

2000年代の躍進

2009年8月、高橋大介はT2K 筑波システムを使って2兆5769億8037万桁まで計算し、新たな世界記録を樹立しました。検算まで含めると、73時間も要する大仕事でした。

同じ年の12月には、Intel Core i7 を搭載したデスクトップパソコンが活躍します。フランスのファブリス・ベラールがチュドノフスキーの級数を使って、2兆6999億9999万桁まで求め、わずか4ヵ月で世界記録を塗り替えます。こちらは、検算を含め、131日間を費やしました。

2010年には、ふたたびパソコンが活躍します。日本の会社員・近藤茂とアメリカのアレクサンダー・イーが3ヵ月をかけて、5兆桁まで計算しました。この二人はさらに、2011年に1年1ヵ月をかけて、やはりパソコンで10兆桁まで到達します。2013年には、94日間で12兆1000億桁まで計算したと発表しました。

2014年には、ワークステーションでの結果が出ます。サンドン・ナッシュ・ヴァン・ネスが208日をかけて、13兆3000億桁まで計算しました。ここまでくると、大型コンピュータよりパソコンが活躍するという様相を呈しています。

2016年にはピーター・トリュープが105日をかけて、パソコンで22兆4591億5771万8361桁まで計算しました。

この記録を破ったのが、前回の記事〈どこまでも終わらない挑戦…コンピュータによる円周率計算の歴史〉で紹介した、2019年3月14日のGoogleの結果だったのです。

その桁数、じつに31兆4159億2653万5897桁!

一目でおわかりでしょう、3.1415926535897×10の13乗桁! です。121日を要した計算でした。

これからも、この数字はどんどん更新されていくでしょう。実用的な面からは、これほど精密な値はまったく必要ありません。それでも人は、その“真値” を求めて探求を続ける——円周率πには、なぜか人を惹きつける魅力があるようです。

私たち人類の興味、知的関心は、必要かそうでないかを悠々と超えていくのです。

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