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世界記録は31兆桁! 日本人も活躍する円周率「π」計算の最先端

『円周率πの世界』5

世の中には、ふしぎな魅力で人を惹きつける「数」や「図形」が存在します。なかでも古くから人類を魅惑し続けてきたのは「π」と「円」ではないでしょうか。そこには、どんな数学的な秘密が隠されているのか……話題の新刊『円周率πの世界——数学を進化させた「魅惑の数」のすべて』の内容を短期連載で紹介いたします。

前回はENIACから始まる電子計算機による円周率の近似値計算から、1967年にパリ原子力エネルギー委員会によって達成された50万桁までの歴史を追ってきました。今回は1970年代以降のπの計算の歴史を追います。

100万桁時代の到来——日本人の活躍

円周率の近似値計算にコンピュータが活用されるようになってから、四半世紀──。

1973年には、ついに円周率が100万桁を突破する時代が到来しました。ジャン・ギューとマルティーヌ・ブイエがCDC7600を使って、100 万1250 桁まで計算したのです。

CDC7600は、アメリカの電気工学者で「スーパーコンピュータの父」といわれるシーモア・クレイ(1925~1996)が設計したコンピュータです。前回の記事〈どこまでも終わらない挑戦…コンピュータによる円周率計算の歴史〉で登場したCDC6600の後継機で、1969年から1976年にかけて、世界最速のコンピュータといわれていました。このコンピュータの後継機が、スーパーコンピュータ「Cray-1」です。

この時期にいたっても、さらに新しい計算法が開発されています。1973年には、ユージン・サラミンとリチャード・ブレントが、それぞれ独立に新しいアルゴリズムを発見しました。彼らの方法は、算術幾何平均を使った計算法でした。

算術平均と幾何平均は、高校数学で習う基本的な不等式です。この二つの不等式を組み合わせた数列は収束が速く、数値解析に応用されることがあります。1回のステップで、2回分のステップをすることと同じ価値がある数列がつくれます。「楕円積分」という大学レベルの解析学でも必要な計算方法です。

この計算方法を使って、1982年に日本の国立天文台電波研究部に所属していた田村良明が209万7144 桁まで計算しました。使われたコンピュータは、三菱電機が開発したMELCOM900 IIでした。同じ年に、田村と金田康正の二人が日立製作所のHITAC M-280を使って、419万4288桁まで計算を進めます。やがてその記録をさらに伸ばし、838万8576桁まで計算しました。金田康正は東京大学名誉教授で、円周率計算ソフト「スーパーπ」で有名です。

日本の研究者の貢献が多いのは、優れたコンピュータを製作していたのと、数値解析に優れた能力をもっていたためと考えられます。

1000万桁を突破!

1983 年には、金田康正と筑波大学の吉野さやかが、日立製作所のHITAC M-280 を使って、1677万7206桁まで計算します。同じ年に、日立製作所の後保範と金田康正が、日立製作所初のスーパーコンピュータ・HITAC S-810/20とガウスの公式を使って、1001万3395桁まで計算しました。ガウスの公式は、

π/4 = 12 arctan(1/18) + 8 arctan(1/57) - 5 arctan(1/239)

で表されるアルゴリズムで、下記のマチンの公式に似ています。

π= 16 arctan(1/5) - 4 arctan(1/239)

マチンの式は、円周率の計算において本質的なものを備えているのでしょう。そのポイントは、1/239 です。

この1983年という年にはもう一つ、注目される計算結果がもたらされています。若松登志樹がパソコンを使って、非常に良い近似値の結果を得たのです。

シャープのパソコンMZ-80B を使い、ガウスの公式によって、7万1508桁まで計算しました。若松登志樹はこの後も、パソコンで良い結果を出していきます。

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