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どこまでも終わらない挑戦…コンピュータによる円周率計算の歴史

『円周率πの世界』4

世の中には、ふしぎな魅力で人を惹きつける「数」や「図形」が存在します。なかでも古くから人類を魅惑し続けてきたのは「π」と「円」ではないでしょうか。そこには、どんな数学的な秘密が隠されているのか……話題の新刊『円周率πの世界——数学を進化させた「魅惑の数」のすべて』の内容を短期連載で紹介いたします。

前回までの記事では、古代文明における円周率の計算を見てきました。今回は時代を一気に進めて、計算機による円周率の探求についてご紹介します。

ある日本人女性の快挙

2019年3月15日——。

イギリス・BBC は、ある日本人女性が快挙を成し遂げたことを大々的に報じました。Googleに勤める女性技術者・岩尾エマはるかが、πの値をなんと31兆4000億桁まで計算して、世界記録を更新したというニュースです。

Googleはπ=3.14にちなみ、3月14日にこの結果を発表しました。それまでの世界記録は約22兆桁だったので、この新たな近似値は文字どおりの大進歩です。31兆4000億桁を読み上げるには、1秒に3桁として、じつに33万2064年かかるというのですから、この記録のすさまじさには驚くばかりです。

いったい誰が、これほど精密なπの近似値を使いうるのか——実用の面からは、少々疑問が湧きますが、円周率という数字が、私たち人類をいかに魅了してきたか、否、いまなお魅了しているかを如実に物語る事実だといえるでしょう。

はるかな古代文明から始まったπの近似値を求める探求が、現在でも熾烈(しれつ)な桁数競争を促していることにふしぎな感覚を覚えます。そして、現在の競争の主役は、いうまでもなくコンピュータです。

ENIACの記録

コンピュータを用いて、円周率の計算を初めておこなったのは、第二次世界大戦後のことです。1949年9月、アメリカの弾道研究所のコンピュータ「ENIAC(エニアック、Electronic Numerical Integrator and Computer)」が、2037桁までを70時間かけて計算しました。

ENIACを操作する計算者(コンピュータ) Photo by CORBIS/Corbis via Getty Images

第二次世界大戦時は、コンピュータの開発が加速した時代です。大砲の弾道計算をおこなうために、高速計算ができるコンピュータが要求されました。大砲を的確に使用するためには、その大砲の特性を細かく表した数表が必要です。

大砲を撃つとき、最初から敵を直撃することはそれほど多くありません。撃ってしまえば、敵に発射位置を察知されます。そうなると、こんどは敵が、こちらの陣地を狙って大砲を設定してくるので、相手が撃つより前に第2弾を発射できるよう、すぐさま計算を修正可能な正確な数表をつくる必要があったのです。

高速計算機が要求されたゆえんです。他にも、たとえば原子爆弾の設計のためにも高速計算機が必要とされましたが、現実には、電子計算機の登場はどちらの計算にも間に合いませんでした。

しかし、この期間の研究の蓄積が、第二次世界大戦後の電子計算機の著しい発展につながっていきます。

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