ゲームブランド「Key」の立役者として『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』『Angel Beats!』など数々の傑作を生み出してきたシナリオライター・麻枝准さん。P.A.WORKSとのコラボアニメ『神様になった日』も大きな話題を呼んだばかりだ。

そんな麻枝さんが初の文芸作品として出版した『猫狩り族の長』は、女子大生・時椿が、才能にあふれながらこの世に絶望し、死ぬことを願う美しき天才作曲家・十郎丸と出会う物語だ。時椿は、十郎丸に寄り添い、彼女の「絶望」を救いたいと願う。こんなに恵まれているのに、なぜ死のうとするのか――。

そのように疑問を抱くような悲しい出来事は現実にもあるが、麻枝さん自身が、ある意味で十郎丸だというのだ。それはどういうことなのか。麻枝さんはどのようにしてこの作品を描くに至ったのか、そして死すら考える「ネガティブな感情」とどのように生きているのか。率直な思いを寄稿いただいた。

撮影/
麻枝准(まえだ・じゅん)
1975年1月3日生まれ。三重県出身。シナリオライター、作詞家、作曲家、サウンドプロデューサー。2021年、初小説『猫狩り族の長』を上梓。
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バグった脳で生きる正常なこの世界

「何を食べたら、こんなネガティブな考え方をする人間になるのか」
初めて書いた小説が発売されて時間も経ち、結構な数の感想に目を通しましたが、そのひとつが印象的でした。小説の登場人物・十郎丸を指した言葉です。
実は、書いた自分にもわかりません。
なぜなら、自分自身がこんな人間だからです。

自分にとって、毎日は過ぎ去るものではなく、懸命に乗り越えなくてはならないハードルです。それは山のように高いです。普通の人であれば、数歩進めば訪れる明日が、自分にとってはクライミングのように手足を酷使して、乗り越え、ようやく迎えられるものです。
自分の時間は、何かに夢中になっていなくては流れてくれません。特に、仕事以外の空白の時間は恐怖です。普通のひとのようにスマホを眺めて過ごしたり、ぼーっとしたり出来ません。しかし自分が興味が持てるものは数が限られています。毎日、仕事が終わってから寝るまで何をして時間を潰せばいいか、それに絶望し、おかしくなりそうになります。

さらに土日は地獄です。自分が仕事をしたくても、世の中の多くの人は仕事をしていません。必然、自分はまたやることをなくします。時には、こころの健康相談の電話番号を調べるところまで行きます。福祉センターの方にも「いつでも電話で、お話ぐらいは聞けます」と言ってもらいましたが、自分の都合で誰かの時間を奪い去るのが嫌なのでまだしていません。ただ、それが記されたお手紙だけは、死ぬ寸前に縋るために、お守り代わりに常に手元に置いています。
手塚さんありがとうございます。

そういえば、「そんなに時間が余っているなら小説でも書いてはどうでしょう」と提案してくれたのもその手塚さんです。その時は「すでに書いています」とお返事しました。心療内科にも20年近く通い、あらゆる抗うつ剤を処方されてきましたが、このネガティブな考え方は一ミリも変わることがなかったです。