パスポートでは「浜田」と認識されず…

極め付けが2001年9月11日、米同時多発テロの取材時の経験だった。5日目にニューヨーク入りしたのだが、朝日新聞社のニューヨーク支局が入っていたニューヨーク・タイムズの社屋に入ろうとする時に一悶着あった。当時のニューヨークは、次はどこでテロが起きるのか、と街全体がピリピリしていて、あらゆるビルの入り口で身分証明書の提示を求められた。ニューヨーク・タイムズのビルに入るときも同様で、出入りには必ずパスポートなどを警備員に見せ、会社側が提出した社員リストと照合された。朝日新聞では東京から何人もの記者が応援に入っていたが、そのリストに掲載された私の名前は「浜田」だった。

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だがパスポートは夫の姓。名前が違うと、どうしても通してもらえない。浜田が結婚前の姓であること、仕事上の名前と本名が違うことを説明しても警備員は聞く耳を持たない。「浜田は、ヒラリー・ロダム・クリントンの『ロダム』にあたる」などとヒラリーの事例まで持ち出したが、埒があかなかった。結局支局に電話して、社員に説明してもらい、さらに入り口まで迎えに来てもらい、なんとか入れたが、その一件で、修羅場のような状況で仕事をしている同僚たちに迷惑はかけられないと、私は取材期間中、支局に行くことを諦めた。

なぜ女性だけがこれほどの社会的コストを負わなければならないのだろうか。そもそも今の制度が、女性が働き続けることを前提にしていないのではないか、と強烈な問題意識を持ち始めたのは、この経験が決め手となった。

パスポートの旧姓併記ができるようになった今でも、旧姓併記では済まない問題も多くある Photo by iStock