赤い衣装も演出も気持ち悪かった

2006年12月31日の紅白のステージでは、歌う前に性同一性障害であることを紹介された。

紅白歌合戦では、“紅組”で出場することになったんですけど、用意された衣装は赤いドレスにちょっとだけ白が入っているデザインで、正直、気持ち悪いなあって思っていました。どうして衣装で説明しなくてはいけないんだろう。

あの微量な『白』は、お前は男性だ、という意味だったのでしょうか。紅白の前にいくつかの番組で自分のセクシュアリティについて話していたこともあり、男児として生まれた人間が紅組で出るということがセンセーショナルだ、そういう注目のされ方を煽ったのだと思います」

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性同一性障害であることの説明VTRが流れた後、スタッフが事前に書いてもらっていた「母親からの手紙」を、司会の中居正広氏が読み上げるという演出も大きな話題となった。

「手紙は、『あなたの思うように産んであげられなくて申し訳ない。あなたの生きたいように生きられない柵(しがらみ)の中にずっといさせてしまって申し訳ない』というような内容でした。

あとで聞いた話で、当時のマネージャーが母に連絡して手紙を書かせたらしいのですが、人の気持ちを想像出来ない人という印象だったので、そんな人がどんな言葉で母に手紙を書かせたのか、今考えるだけでもゾッとします。もう何から何まで失礼というか……」

手紙を読み終えた後、中居氏から感想を聞かれ、当時のスタッフへの憤りや世の中へ不信感も込めて、中村は淡々とこう応えた。

「バカだなと思いました。そんな風に思うものじゃないって。あなたのせいでこうなったわけじゃない」と……。

NHKとしては、母からの感動的な手紙を読み上げ、お涙頂戴の演出のつもりだったのだろう。しかし、中村は涙ひとつ流さず、大舞台で堂々と歌いきった。

「歌っている間は自分だけの世界で誰も入ってこられないし、わずらわしいことは何もないので。VTRにしても手紙にしても、過剰にドラマチックにされて、もてあそばれているというか。きっとチューイングガムのようにクチャクチャ噛まれて、味がなくなったら捨てられるんだろうなって。そんなことを感じながら歌っていましたね」

撮影/渞忠之
後編→「紅白で自分は一度死んだ」と告白する中村 中。
そんな中村に紅白後、待ち受けていた試練とは……。

【「カミングアウトは嫌だった」、性別を宣伝に使われ、苦悩したシンガーの告白】に続く