男性はずっとA面の世界にいられる

清田:これは『さよなら、俺たち』にも書いたんですけど、妻は妊娠中、つわりやどんどん大きくなるお腹の影響で仕事や日常生活がままならなくなっていくのに、自分の身体にはなんの変化もなかったのね。身体の構造的にそれ自体は致し方ないことではあるんだけど、自分だけ仕事も変わらずできてしまうその状況に、戸惑いや罪悪感を抱きながら暮らしていた部分があって……。

田房:本当は私はすぐにでも働きたかった。でも保育園が足りなくて入れない。9年前は、保育園に入れないママは仕方なく自分の仕事をやめてキャリアを捨てて育児をする、というのが当たり前でした。今もそういう人はたくさんいると思う。保育園というのはA面とB面をつなぐものなわけです。特にママ、女性の。

それを国(A面)がたくさん用意しないっていうのは、「優先エレベーターを必要としてる人たちの切実さを大学生が知らないこと」とつながってるんですよね。保育園に入るために赤ちゃんを抱っこして役所に何度も通いました。パパがA面(仕事)にいる間、ママはB面(育児)しながらA面(役所)に行くわけ。自分のA面(労働時間の確保)のために

妊娠するのは女性だから仕方ないんだけど、どんなシーンでも、A面をつつがなく進行するためにA面とB面を行ったり来たりする負担は女性のほうがやっぱり多いんですよね。女性は自分がやんないとどうしようもないからやるしかないけど、男の人はちょっと離れたところから見ていられる、みたいな。A面B面の話はジェンダーの問題とも密接に関係しているんですよね。

上野千鶴子・田房永子『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』P117より引用
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清田:本当にそうだと思う……。以前、恩師と一緒にdoingとbeingについて考える自主ゼミを大学でやっていたんだけど、そこでもやはりジェンダーの話が出ました。男性、とりわけ「シスジェンダー(割り当てられた性別と性自認が一致)でヘテロセクシュアル(異性愛者)で概ね健康で会社員として働いていて……」というイメージの“マジョリティ男性”はどっぷりdoingの世界に浸かっていて、自他のbeingを抑圧し、無視しているんじゃないかって。

田房:自分のB面/beingを抑圧、無視する教育は女性も受けてるけど、妊娠出産でいきなりB面にスライドさせられるっていう出来事は、男女の差があると思う。それ以外でも女性が、男性によってB面側に行かされるシーンって結構あるから、男女差はやっぱありますよね。男性も身体を壊したり、離婚とか危機や挫折がきっかけでB面に気づくことがあると思うけど、ずっとA面だけに居続ける人もたくさんいると思う。

※#2「『母親はこうあるべし』によって『自分の特徴』を捨ててしまう女性たち」に続く

田房永子(たぶさ えいこ)プロフィール
漫画家・エッセイスト。1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行し、ベストセラーに。主な著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『キレる私をやめたい〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜』(竹書房)など。新刊は、ワンオペ妻から大黒柱になったとたん“昭和のお父さん”の言動をしてしまう女性を描いた『大黒柱妻の日常』(エムディエヌコーポレーション)。娘(2012年生まれ)と息子(2017年生まれ)の二児の母。

清田隆之(きよた たかゆき)プロフィール
文筆業・桃山商事。1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオで発信している。「QJWeb」「日経doors」「共同通信」「すばる」「現代思想」「yomyom」など幅広いメディアに寄稿。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。桃山商事としての著書に『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(ともにイースト・プレス)、単著に『よかれと思ってやったのに──男たちの「失敗学」入門』(晶文社)『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)などがある。