株価のような読者にとって当たって嬉しいものを当てた訳ではないので自慢はしないが、参議院選挙の結果は、2週間前の本欄で「菅氏の『奇兵隊』は初戦から敗走する可能性が大きいのではないか」と予想した通りの民主党敗北だった。
民主党は国民新党と合わせた連立与党ベースでも参院の過半数を確保できなかった。参議院議長のポストも失う可能性が大きい。
衆院に優越が認められる予算案は何とか通っても、予算関連法案が通る保証がないから、このままでは政権運営は遅くとも次期通常国会中に行き詰まるだろう。
それ以前に、参院選大敗の「責任論」が今後の世間の関心事になる。
ワールドカップも終わったし、大相撲の問題も関心的には尻すぼみなので、世間のサディスティックな楽しみは政変の可能性に集中する。こんなときアメリカのような野蛮な国の政権なら、外国に戦争でも仕掛けて国民の関心を逸らす方法があるが、日本では無理だ。
9月の民主党代表選挙では、選挙期間中から菅氏を批判していた小沢一郎元幹事長のグループが菅氏に対立候補を立てることになるだろう。それまでは小沢氏のグループにとっては、菅・仙谷、枝野体制がしばらく継続するほうが批判のターゲットが明確で好都合だ。
選挙から明けて2日目の全国紙の朝刊1面最大の見出しは、毎日「枝野幹事長続投」、読売「公明・みんなに連携打診へ」、朝日「首相、責任論封じ懸命」とある。この大敗に責任者の辞任なしで収まるはずがないし、公明党、みんなの党が今の時点で簡単に連携するはずもない。菅氏の政治センスのなさが全開していると言わざるを得ない。
代表戦の票読みは難しいが、党内最大の勢力を誇る小沢氏に近いグループと、鳩山氏に近いグループが菅批判でまとまれば、すでに党員票固めの手を打っているとされる小沢氏のグループが推す候補者に勝ち目が多いだろう。
小沢氏に近いとされる候補者としては原口一博総務大臣がおそらく最適の人物だろうが、計算上「勝ち目有り!」となれば、彼も政治家だから誘いに乗って不思議はない。「政権交代の、即ち(総選挙の)マニフェストの初心に帰る」という大義名分も十分立つ。
ちなみに、他に名前の挙がる人では、海江田万里氏はキャリアのある政治家だが、首相候補に担ぐには、閣僚経験がない。前々回の総選挙では落選しており、前回の選挙で復活したばかりだ。
小沢一郎氏自身は、少なくとも検察審査会の結果を見るまで動けまいし、数を得るためには小沢氏のカラーを薄めるのが得策だろう。細野剛志幹事長代理は男前だし小沢氏に忠実だが、若すぎるし、山本モナさんとの不倫問題の記憶が生々しすぎて、党の顔にはまだ使えないだろう。
菅氏としても、やっと手に入れた首相の座だし、首相と党代表としての各種の権限を持っているので、それなりの対抗策を講じるであろう。しかし、報じられているように、現在の執行部を維持して、参院選の敗北をやり過ごし、そのまま政権運営に当たろうとしても、早ければ今年の9月、遅くとも来年の春には政権運営が行き詰まるだろう。
このままでは、どう見ても、菅内閣は短命だ。将棋なら必至が解けない状態ではないか。
筆者は、今になってもギリシャと日本の状況の違いがよく分からない菅直人氏、人物的にも政権交代後の重要な時期に鳩山前首相を支える働きをせずにひたすら「次」を待って官僚との妥協を繰り返していた菅直人氏が、首相を今すぐに辞めても何ら惜しいとは思わない。
ただ現在の政治状況を考える「思考実験」の一つとして、菅氏の立場に立って、菅政権延命のための秘策はないかと考えてみた。
すると、意外なことに「秘策」はあるのではないかと思われた。
例えば、菅氏が、以下の手順を踏んだらどうだろうか。読者も想像してみて欲しい。
< 菅直人首相、逆転延命のための「秘策」 >
手順1 【参院選敗北総括のやり直し】
参院選敗戦を総括する会見をやり直す。ここからやらないと始まらない。
この際に、財政支出のムダ削減の前に消費税増税を予約しようとした「手順の誤り」と、総選挙マニフェストととの不整合をやり過ごして消費税を上げようとした「不誠実な態度」を詫びることが肝心だ。
有権者は、菅氏が言うような「説明不足」に怒ったのではなく、「手順の誤り」と「不誠実」に怒ったのだ。
製品の不具合を詫びリコールを発表するメーカーの社長のような態度で「顧客」たる選挙民に納得して同情的になって貰わなければ、トラブル・シューティングは上手く行かない。
できるだけ、みじめな自分の姿を晒して、人が意外に感じるところまで自己批判することが肝心だ。言い訳は無反省だと思われるだけだし、プライドは反感を買うだけだ。
そして、何について詫びているのか、よく分かる具体的な形が必要だ。(手順3)で述べるが、消費税問題の白紙撤回は優れた手段だろうと思う。
手順2 【小沢一郎氏への公開の場での詫び入れ】
総選挙のマニフェストを軽んじて消費税の引き上げに言及したことや、子ども手当などの公約を簡単に破ろうとしたことは、菅氏の政治家としての誤りだ。菅氏にとっては残念なことだが、選挙期間中の小沢氏が発した菅氏への批判は正論だった。
また、法的には何ら疾しいところはないという立場を取っていた小沢氏に対して、「しばらく静かにしているほうがいい」と言い放ったのは、菅氏が、些か失礼だった。
これらを小沢氏に詫びる手順を入れるほうがいい。
なぜかと言えば、この「秘策」は、小沢氏及び彼のグループが、戦を仕掛けるのは9月の代表戦だと考えて、それまでにしばし時間を与えてくれることで有効になるからだ。
たとえば、代表選挙の前倒しを求めるような政局を直ちに仕掛けられた場合、菅氏が状況を有利に逆転するための時間的余裕が得られなくなる。ここで時間が得られるなら、頭を下げるくらい安いものだ。
小沢氏のグループの側に立つと、ここで手を緩めて漫然と9月を待つと、何が起こるか分からない。仕掛けるなら早いほうがいいだろ。他方、菅氏の側は、時間が欲しい。