2021.06.25
# 植物学

世界で最も詳しく研究されている植物で見つかった"新しい器官"とは?

植物研究のスター選手シロイヌナズナ
熊谷 玲美 プロフィール

宇宙空間にも進出したシロイヌナズナ

マウスのように、共通した性質を持っている生物の代表として研究に使われる生物を「モデル生物」と呼ぶ。選ばれるのは、小さくて育てやすい、世代交代が早い、遺伝子組換えができるといった特徴を持つ生物。ショウジョウバエや大腸菌、酵母もモデル生物だ。

シロイヌナズナもモデル生物だが、マウスやショウジョウバエとくらべると知名度はあまり高くないかもしれない。しかし、実はかなり輝かしい経歴の持ち主だ。

シロイヌナズナが植物の研究で広く使われ始めたのは、バイオテクノロジー研究が盛んになった1980年代。1996年には、シロイヌナズナのゲノム全塩基配列の決定を目指した国際プロジェクトがスタートした。

そして2000年、高等植物(根や葉のような構造を持つ植物)では初めて、シロイヌナズナの全ゲノム解読が完了した※6

シロイヌナズナは、生長や、開花、必要な栄養、病気や害虫への耐性などに関係する遺伝子がイネ、小麦、ダイズのような農作物と共通している。そのため、シロイヌナズナでの研究結果を使って、ほかの農作物の問題を解決することができる。マウスでの研究結果を、ヒトの病気の研究に生かせるのと同じだ。

たとえば、シロイヌナズナから取り出した、乾燥に強い性質をもたらす遺伝子をイネに組み込むことで、干ばつに強いイネを作り出した研究 がある※7。また、気候変動によって植物のゲノムがどのような影響を受けるかを、シロイヌナズナを使って調べるという研究もおこなわれている※8

シロイヌナズナは宇宙空間にも進出している。国際宇宙ステーションに運ばれて、微小重力環境がシロイヌナズナの生育に与える影響を、分子レベルで調べる研究がおこなわれている※9

宇宙でのシロイヌナズナの発芽実験。Credit:NASA

2019年1月、世界で初めて月の裏側に着陸した中国の月探査機嫦娥4号にも、シロイヌナズナが載せられていた。月面での生態系実験のために、ジャガイモや綿花、酵母やミバエの卵などとともに金属容器に入れられていた※10

残念ながら、月の過酷な環境を生き抜けなかったが、月面で植物を栽培しようという史上初の試みだった。

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