暴力団の殺し合いが最強コンテンツに
出版界でも、暴力団の殺し合いは庶民の娯楽となり、数字の取れる最強コンテンツに急成長した。溝口は暴力団報道の真ん中にどかりと座り、ただひとり山口組の芯を食ったレポートを書き続けた。暴力団も溝口に抵抗した。オリンピック級のサイコパス揃いが繰り出す言葉の暴力は心身を蝕むのに、溝口はそれを怒りではねつけた。
「二日後、後藤(忠政)は東海道新幹線の中から電話を掛けてきた。
『ゲラを見せる、見せないではなく、出版を中止してくれ。初版の印税は負担する』
と言うのだ。
この要求には頭に血が上った。
『あんたの中止要求を飲めばもの笑いのタネだ。こっちはライター生命がなくなるんだよ、この話はなしだ』
と言い返して電話を叩き切った。私の悪いクセでカッとすると後先が分からなくなる」
(『喰うか喰われるか』より)
こうして出版された『五代目山口組』は客観的にファクトを積み重ね、山口組とトップになった男の器量を丸裸にした。「渡辺芳則は山口組のトップにふさわしくない」という告発だった。本は順調に売れ、マスコミ関係者の評判も上々だった。
「要するに抗争をわが事とせず、というのが渡辺の基本である。こういう渡辺を『現代的』とは評せても、『武闘派』などとするのは誤りである」(『五代目山口組』42pより抜粋)
大騒動は避けられなかったかもしれない。ついに溝口は山口組に刺された。