ヤクザ記事のNGワードとは?

溝口が指摘したように「目指せ、ヤクザの業界誌!」だから、暴力団に必読な情報は網羅するし、古き良き任俠道は提唱する。しかし組織や個人を具体的に批判すれば、取材拒否によって報復されてしまう。そもそも暴力団は怖い。腹をくくり、勇気を持たねば批判できない。毎月トラブルが起きるため、書き手は誰に指示されたわけでもないのに、自然、穏当な言葉を選び、婉曲表現を多用し、断定を避ける。こうして自主規制でがんじがらめのヤクザ記事構文が定型化する。

溝口だけが遠慮や忖度、おべっかやお追従とは無縁だった。暴力団のマスコミ報道は、有り体にいえば溝口敦とそれ以外だった。

 

爆弾のような生原稿は、暴力団の地雷を知る格好の、そして貴重な教材にもなった。社長の感情爆発が収まると、定期的に編集部員が集められ『クレーム回避のヤクザ記事講座』が開講された。「逃げる」「弱い」「負けた」「烏合の衆」など、暴力を売りにするヤクザにとって明確なNG表現は溝口敦の生原稿でしかお目にかかれなかった。

NGワードだけなら、別の言葉に置き換えればいい。たとえば幹部が組の金を使い込んで自らの頭を撃ち抜いたら、自殺、自死、自決、自害などから、類語辞典を引きつつ慎重に言葉を選ぶ。叙情的に(服毒自殺ではなくとも)毒杯をあおったとか、(腹を切っていなくとも)切腹とぼかす手もある。2007年、國粹会の工藤和義会長が、東京・台東区の自宅で拳銃自殺した際、毎週必ず山口組記事を掲載する実話系週刊誌は「自裁」と書いた。暴力団側の要請だったと聞いているが自主規制かもしれない。

司忍六代目山口組組長

関連記事