優勝して娘をトラックで抱き上げたかった

私が最も印象に残った大会がある。今年4月29日に行われた織田幹雄記念大会でのこと。自身の日本記録を0.01秒更新する12秒96で優勝し、タイムが表示された電光掲示板で写真を撮っていた。その腕には、6歳になる涙ぐむ娘を抱えていた。

寺田明日香選手公式インスタグラムより

「娘が泣いていたのは、恥ずかしくて泣いたのか、父親に背中を強く押されて泣いたのか、わからなかったんです。抱っこして『どうして泣いているの?』と聞いたら『うれし…』と小さい声で言いました。それを聞いて私もウルウルしてしまいました。嬉しくて泣くという経験って、なかなかできないことだと思います。他の人のことで喜んで泣けるのは、びっくりしましたね。そういう気持ちで泣くことができる子に育ったことがとても嬉しかったんです」

涙ながらに話す寺田選手に、私も母親として心に刺さるものがあった。自分にとって「今しかできないこと」と子どもの「今しか見られない成長」。このバランスをうまくとることは、とても難しい。しかし、何かに向かって努力する母親の姿を娘に見せることは最高の子育てではないかと思った。

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寺田選手のスポーツが教えてくれたことを尋ねると、彼女らしい言葉が返ってきた。

人との繋がりです。いろんな人の意見を取り入れることで、世界が広がって自分がよくなるし、相手もよくすることができるし、相乗効果になると思っています。スポーツはひとりじゃできない。娘にも、スポーツを通してそういうことを学んでほしいです」

摂食障害、引退、進学、結婚、出産、復帰、数々のハードルを越えるたびに強くなった寺田選手。彼女が一つ一つハードルを越えることで、また新しい生き方を体現しようとしている。
 

誰よりも応援してくれるお嬢さんの「ままへ にほんしんきろくおめでとう」の手紙が愛おしい 写真提供/寺田明日香