飛込元日本代表の馬淵優佳さんが、アスリートに率直な話を聞いていく連載「スポーツが教えてくれたこと」。優佳さん自身のこと、鈴木誠也選手、玉井陸斗選手に続き、登場いただくのは、優佳さんがずっと話を聞きたいと思っていたという100メートルハードルの寺田明日香選手だ。

寺田選手といえば、4月の織田記念に続き6月1日の木南記念でも自身の持つ記録を更新する12秒87という日本記録を出したばかり。五輪の標準記録には惜しくも届かなかったものの、ランキングでは出場圏内におり、代表選出は濃厚。6月24日から27日に開催される日本選手権でも注目の一人だ。

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31歳で日本トップを走る寺田選手だが、一時は陸上競技から引退し、ラグビーの世界に入っていた。その間に結婚・出産もしている。いったいそのパワーはどこから出てくるのかと瞠目するが、実は10代~20代は深刻な摂食障害にも悩んでいた――。馬淵優佳さんが自身のインタビューをもとにリポートする前編では、いま日本新記録を連発している寺田選手が一度引退を決意した背景を、優佳さんが「女性の身体」の話を中心に詳しくお届けする。

馬淵優佳さん(写真左)はずっと寺田明日香選手(同右)にお話を伺いたかったという 撮影/渡部薫
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きっかけは「ディズニーランドに行きたい」

2013年、オリンピックが東京で開催される事が決まった。その時、結婚を意識していた寺田選手は「子どもと一緒に東京オリンピックが見たい」と強く思ったという。しかし、それから8年。今では寺田選手自ら、東京オリンピック出場に向けて着実に前進している。今年6月1日に行われた木南記念大会の予選で日本記録12秒87を樹立。東京オリンピックの参加標準記録12秒84に迫る好タイムだ。しかし、果たして8年前、「応援する」ではなく「応援される」自分を想像していただろうか。

今もなお進化し続ける寺田選手の秘密を探るために、陸上競技を始めたころを紐解いてみよう。

「陸上競技は小学4年生から始めています。両親が陸上競技をやっていたので、祖母が『陸上競技大会で明日香が走るのをみたい』と言って、札幌の大会に母が申し込んだんです。その大会で2位に。1位と2位は北海道大会に出場できたので、大会に出場。そこで4位になりました。そのうちに5.6年生で1番になったら東京で開催される全国大会に出場できると知って、なんとかしてディズニーランドに行きたいという思いから陸上をやり始めました。なので、陸上競技を真剣に始めたきっかけはディズニーランドですね」(寺田選手・以下同)

母は元短距離選手、父は元ハードル選手。国体にも出場経験があるご両親を持つ寺田選手もまた、走るのが元々速かったという。
「4年生のときは母がコーチしてくれて、週5日練習で一緒に母と走っていました。母は『25分間、家の周りを走っておいで』と一度家の中に入るんですが、時折ストップウォッチを持って外に出てくるから、歩いたりしてサボれなかったんです(笑)。でも小学5年生にクラブチームに入ってからは、母は一切なにも言わなくなりましたね。唯一、覚えているのは、試合の時、走る直前にお友達と喋ってばかりいたんですが、そこでタイムがよくなかったんですね。そうしたら母に『それは試合に出る態度ではない。他の人にも失礼だ』と一度だけ怒られました。それだけはよく覚えています」

小学生のときの寺田選手。学校の中でも背が高く、かけっこはダントツで速かった 写真提供/寺田明日香