コロナ禍で多くの人が飛びついたアマビエに「悪疫退散」の効果がなかったワケ

昔も今も大衆は“まじない”に頼る

コロナ禍の閉塞状況から、私たちはまだ出口が見出せずにいる。ワクチンに希望を託しつつも、特効薬が発明されたわけでもなく、変異ウイルスの脅威、東京五輪の開催にともなって起こるであろう“人流”の活発化など、不安を払拭できない状態だ。

感染症の克服は、昔も今も大きな課題であり続けている。原因は何か、どうすれば罹らずにすむか、罹っても死に至るまで重症化しないためには、どんな治療を施すべきか。時代を問わず襲ってきた疫病の脅威と恐怖を乗り越えていくために、私たちは叡智を傾け、ありったけの知識を動員してきた。

人類の歴史を見渡してみても近代医学が普及するまで、アジアでもヨーロッパでも、土着的な医療や、祈祷やまじないといった習俗に頼らざるをえなかった。新たな感染症が流行するたびこうした状況は繰り返され、このコロナ禍でも俗信への依存がみられたのである。

〔PHOTO〕Gettyimages
 

「コロナに効く」と喧伝される科学的根拠が乏しい薬品や噴霧器などはもってのほかだが、多くの日本人が飛びついたのが、見馴れぬ妖怪だった。もちろん、江戸時代の1846年5月(弘化3年4月)に肥後国(現在の熊本県)で目撃された、うろこ状の体に三本足をした「アマビエ」である。このウイルス禍でアマビエが最初に出現したのは、去年の2月末だった。ある妖怪掛け軸専門店が、ツイッターで絵とともにアマビエについてつぶやくと、この災厄除けの霊獣は日本人を虜にした。

アマビエをモチーフにしたイラスト、漫画や動画を「#アマビエチャレンジ」というハッシュタグを付けて投稿することがブームになり、さらには、饅頭、どら焼き、煎餅などの和菓子からドーナッツやクッキー、ワインや日本酒、ビール、清涼飲料のラベル、キーホルダーやストラップ、マスクなどのキャラクターとして、アマビエは21世紀の日本人の生活に侵入、浸透していったのである。

アマビエとよく似た性格をもつ「悪疫」を予言する妖怪たちの掘り起こしも始まり、彼らにも光があてられていった。「アマビコ(尼彦・海彦)」や「ヨゲンノトリ」、「神社姫」などが、後発の妖怪たちはそれほど普及せず、アマビエの“ひとり勝ち”といった状況が長らく続いている。

筆者が驚いたのは、胡散臭さもつきまとう妖怪アマビエを、各地の神社仏閣がお墨付きを与えている事態である。由緒正しい社寺が、お守りや護符とし参拝者に授けるのは、伝統的な神道や仏教が、アマビエによる「悪疫退散」の効力を認めてしまっていることにならないのだろうか。

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