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意外な水道水の基準値の根拠…「洗濯」や「お茶の味」も関係していた

『基準値のからくり』6

賞味期限、放射線量、電車内での携帯電話……私たちはさまざまな基準値に囲まれて、超えた/超えないと一喜一憂して暮らしています。しかし、それらの数字の根拠を探ってみると、じつに不思議な決まり方をしているものが多いようです。

そんな不思議な基準値の実情を、「基準値オタク」を自称する俊英研究者4人による書籍『基準値のからくり――安全はこうして数字になった』から抜粋して、全6回の短期連載でお届けします。

最終回となる今回はみなさんの身近にも存在している「一酸化二水素(DHMO)」の基準値について解説していただきます。

(この記事は2014年6月に刊行された『基準値のからくり』の一部を抜粋したものです)

最も身近で特殊な基準値

こういうジョークがある。

「一酸化二水素(Dihydrogen Monoxide:DHMO)という物質には温室効果があり、酸性雨の主成分である。地形の浸食を引き起こし、多くの材料の腐食を進行させて電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。また、重篤なやけどの原因となりうるだけでなく、末期がん患者の悪性腫瘍(しゅよう)からも検出される。さらに、大量に吸引すると死亡することもある。

このような危険があるにもかかわらず、この物質は、工業用の溶媒、冷却剤、原子力発電、発泡スチロールの製造など、多様な用途で用いられている。さまざまな動物実験にも使われるし、各種のジャンクフードなど多くの食品に添加され、水道水中にも大量に含まれている。はたして、このDHMOの使用を規制すべきだろうか?」
  
じつはこのDHMOとは、化学式でいえばH₂O、すなわち水のことである。正体はありふれた物質であっても、否定的で扇情的な言葉を並べられると、人はいともたやすくだまされ、そんな危険な物質は法律で規制すべきだと考えてしまうものだ。

もちろん、実際には水そのものが規制されるということはない。だが、水道水に含まれているさまざまな物質については、基準値が設けられている。ごくありふれたものだけに、最も身近な基準値の一つといってもいいだろう。

現在は先進国ならばたいていの国では、水道水をそのまま飲んでも問題ない。しかし日本には、安全な水道水を飲むことができる国はごく限られている、と考えている人も多く、ある統計では日本人の6割が「世界で最もおいしい水が飲める国は日本」と回答している。日本人には日本の水道への誇りがあるようだ。

その一方で、水道水の安全性に不安を感じている日本人も少なくない。東京・大阪・中京圏では、家庭で水道水をそのまま飲んでいる人は、全体の25%しかいない。これに対し、浄水器を通してから飲む人は24%、水道水や浄水器を通した水を沸かして飲む人は17%、ボトル水・スーパーの持ち帰り用の水・ウォーターサーバーの水を飲む人は33%である。

しかし水道水は、食品よりもはるかに安全性は高い。食品中の自然由来の発がん性物質に比べ、水道水由来の発がん性物質の量は概して、微々たるものである。ノロウイルスなどの病原性微生物についても、たいていは生ガキなどの食品に由来する。

しかし、食品と違って水道水には「選択できない」「代替がきかない」という特徴がある。そういう理由もあって、水道水の水質基準は1958年に施行されて以来、たびたび更新されている。とくに1992年に20項目が追加されて以降の更新頻度は顕著で、以前の記事《従来の科学では決められない「基準値」と「受け入れられないリスク」の関係》で述べた基準値の特徴3(一度決まるとなかなか変更されない)は水道水の基準値には当てはまらない。

また、本書で示すように基準値には根拠が不明確なものが多いが、水道水の基準値は2003年の改正にともなって根拠も示され、インターネット上で読むことができる(もっとも「以前までの基準値に従った」とあるだけで算定根拠がよくわからない項目もあるが)。

これらの意味で水道水質基準は特殊な基準値といえる。

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