タマゴの賞味期限は、事実上の「消費期限」?…日本ならではの特殊事情

『基準値のからくり』4

賞味期限、放射線量、電車内での携帯電話……私たちはさまざまな基準値に囲まれて、超えた/超えないと一喜一憂して暮らしています。しかし、それらの数字の根拠を探ってみると、じつに不思議な決まり方をしているものが多いようです。

そんな不思議な基準値の実情を、「基準値オタク」を自称する俊英研究者4人による書籍『基準値のからくり――安全はこうして数字になった』から抜粋して、全6回の短期連載でお届けします。

前回はもっとも身近な基準値として「消費期限」と「賞味期限」の違いや、その決まり方について紹介しました。今回はその特殊な例として「タマゴの賞味期限」にまつわる日本ならではの事情を解説していただきます。

(この記事は2014年6月に刊行された『基準値のからくり』の一部を抜粋したものです)

タマゴの賞味期限は、事実上「消費期限」?

多くの食品が生菌数(一般生菌数)、つまりいろいろな菌をひっくるめた数を指標としているのと比べて、変わり種として挙げられるのが、卵である。卵は「保存がきく食品」に分類されるため、賞味期限が表示されているが、これは事実上、「消費期限」と呼ぶべきものである。なぜなら、卵の賞味期限とは「生でも食べられる」、つまり「安全を保障する期限」として設定されたものだからだ。

サルモネラ菌に汚染された卵によって食中毒が引き起こされた、といったニュースを耳にしたことがあるだろう。卵では、殻などに付着しているサルモネラ菌の増殖が起こるまでの期間をもとに、「生で食べられる期限」が決められている。一般的な菌の数ではなく、特定の菌の増殖パターンから定められている点が、ユニークなところだ。

何より注目すべきは、卵は加熱して食べることも多いにもかかわらず、非加熱、つまり「生」で食べられる期限をもとに賞味期限が決められていることである。

「卵かけご飯」に代表される生卵を食する文化は、日本独特のものとされている。この食習慣を前提とした衛生対策、たとえば鶏のえさの衛生管理やワクチン接種などを確実に進めてきた養鶏業者の努力もあって、日本の卵がサルモネラ菌に汚染されている率は非常に低い。2012年には、汚染率は3万個に1個の割合という調査結果も報告されている。

卵がサルモネラ菌に汚染される経路はおもに二つある。卵がつくられる途中の卵巣あるいは卵管からの経路と、殻に付着したサルモネラ菌が卵の内部に侵入する経路である。ただし、汚染された生卵を食べてしまっても、食中毒を起こすかどうかはサルモネラ菌の数にもより、数個程度で食中毒が起きる可能性はほぼ無視できるとされている。また、加熱すればサルモネラ菌は死滅するため、十分に火を通せば期限を過ぎても食べられる。「生食」を前提とした賞味期限だからである。

しかし、卵を生食しているかぎり、リスクをゼロにすることは難しいだろう。2013年に厚生労働省が発表した食中毒統計を見ると、全体で約2万人の食中毒患者のうち、卵が原因の患者数は123人(死者は0人、下痢などの症状の程度はわからない)で、そのほとんどがサルモネラ菌によるものと考えられる。

このリスクを小さくしようとすれば、当然、品質管理のためのコストが大きくなり、業者の経営を圧迫する。日本養鶏協会は2013年6月3日付の全国主要紙朝刊に、意見広告を掲載した。世界でも珍しい「卵の生食」は品質管理が優れているからこそ可能であること、そのためのコストによって多くの鶏卵業者が経営危機に陥りかねないことについて、国民に理解を求めたのである。独特の食文化を私たちが享受するためには、相応のリスクもついてまわることは知っておくべきだろう。

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/