新書の役割――「ナチスは良いこともした」と主張したがる人たち

DIG 現代新書クラシックス(7)
田野 大輔 プロフィール

入門書の役割

全体的に見れば、本書の内容はおおむね「教科書的」で奇をてらったところがなく、「斬新」な印象を与えるものではないかもしれない。

だが最新の研究成果をふまえつつ、誰もが手引きとすることのできるスタンダードな本を書くというのは、熟達した専門家にしかできない仕事である。

 

ナチズムのような社会的関心の高いテーマの入門書には、歴史的事実として確定していることは何か、学界で定説とされている解釈はどういうものかを伝えることがもとめられる。そうした手引きがなければ、インターネット上で怪しげな情報に接したときに、真偽を確かめることもできない。

とくに初学者が手に取ることの多い新書で信頼できる情報を提示することは、間違った俗説の流布を防ぐ上でも重要である。「入口」として信頼できる本はどれか、どの本を読めば正しい知識が得られるのかを示すことは、専門知識をもつ研究者の責務と言える。

筆者に寄せられた膨大な数の批判を読むと、そうした取り組みが非常に困難であることは認めざるをえないが、少なくとも専門家への反発で馴れ合う人たちの言動に歯止めをかける上で、本書のような入門書の役割が大きいことは確かである。

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