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「やらされる練習」の思わぬ弊害…アメリカの子供がはっきり夢を語れるワケ

ほめて伸ばすコーチング(11)/最終回
皆さんには、人生を決定づけた監督やコーチとの出会いがあっただろうか? あるいは、あなたのお子さんにはそのような存在がいるだろうか。日本のスポーツ界に目を向けると、哀しいかな確たる理論も持ち合わせず、未だに鉄拳を用いる指導者が存在する。
日本のスポーツ界は変わらなければいけない。発売中の『ほめて伸ばすコーチング』から一足早く、スポーツ環境の改善に役立つ提言を公開。>今までの連載はコチラ

マウンドでは「否定の言葉」は理解できない

プロのアスリートとして日米両国で活躍し、アメリカで子育てを経験した長谷川滋利は、ピッチャーである息子に努めてポジティブな言葉を掛けた

エンジェルス時代の長谷川氏(左)と、ドジャーズ時代の野茂英雄氏
 

ピッチングの際、アメリカでは通常、捕手が球種を決めるのではなく、投手の判断で行う。2003年のシーズン、28.2イニング無失点記録を作り、同年、メジャーのオールスターゲームでもマウンドに上がった長谷川のアドバイスは、どんな少年の心にも響くであろう。

「マウンド上では、否定形の言葉って理解できないんです。ですから僕がコーチの時は、息子だけでなく他の子にも『ストライクを取れ』と言うより、『ターゲットを目がけて投げた方がいいよ』『そのターゲットは小さい方がいい』『キャッチャーミットは、ターゲットとして大き過ぎる。キャッチャーミットからちょっと出ている紐を目がけた方がいいよ』なんて事を言っていました

それは弓道やアーチェリーも同じで、的の輪に入れればいい、くらいじゃ外してしまうんです。一番ポイントの高いところを目指して射っている人間が、最も向上するそうです。バッターも、センターとライトの間に打つとか、小さく的を絞った方がいいんです。スポーツの基本なんですね。僕がオリックス時代、長嶋茂雄監督が講演に来てくれたんですが、『自分は天覧試合でホームランを打ったけれど、スタンドに運びたいなんて思っていなかった。スタンドの何列目の何番目に打とうと思った。そして、そこに当たったんだ』と話していました。それくらいターゲットを絞らないと打てない、ということを伝えたかったのでしょう」

長谷川はメジャーで生き残るために、打者との駆け引きを覚えた。自分の長所、短所をわきまえることはもちろん、対戦する打者を徹底的に研究し、裏の裏をかく投球を身に付けた。大差でリードしている局面で投げる折には、敢えて打者の好むボールを投げ、「あいつはここに投げてくるのか」というイメージを植え付けた。そのうえで勝負の場面では、まったく異なった投球をした。

「オリックスのシニアアドバイザーとしての立場で語るなら、今日、日本では野球人口が減少しているため、余裕がないんです。ダメな人は他の競技に行ってください。あなたは上手いけれどもベンチにいてください、とは言えません。

ですから高校生の受け皿を、プロ野球自体が作れたらいいですね。高野連は怒るでしょうけれども、プロ野球で高校年代のチームを作るとか……。『皆さん、甲子園を目指してください。でもドロップアウトした人は、オリックスのユースチームに入ってください』というのはアリだと思うんです。そうすると上手く回るというか、今の甲子園も守れるでしょう」

私が気になっている、応援歌を歌うだけの補欠部員についても質した。

コーチは一人でも多くの子にチャンスを与えるのが仕事です。リトルリーグのうちから勝つことにこだわり過ぎるのは良くないですね。でも、我慢することで何かを学ぶかもしれない。そういう意味では、スタンドで応援している選手にも、凄く意味があるんじゃないかと思います。教訓として将来に活かせたらいいのではないでしょうか。

僕が一番言いたいのは、何のために学校に行くかと言えば、勉強です。まずは勉強ありきのクラブ活動であるはずです。日本にいた頃もそう思っていましたし、アメリカでもそう見ています。アメリカは勉強をしっかりやらせようという考えが根本にあります。息子の高校は勉強のレベルが高く、それについていけない野球部員が、何人かドロップアウトしていきました。大学のNCAAのルールは高校以上に厳しくて、学業成績もそうですが、練習時間も決まっていて、全体練習は何時間とか、これ以上練習してはいけないというルールが定められていました。そういうアメリカのシステムは素晴らしいと思いますね」

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