幼少期からの“暴力”コーチが奪う、日本人選手の尊厳と積極性

ほめて伸ばすコーチング(1)
林 壮一 プロフィール

日本代表チームに足りないもの

エスクデロは日本代表チームの強化にも苦言を呈した。

「今日、文化として、ようやく日本社会にサッカーが根付きました。代表の試合はチケットが売れるし、テレビ放送も地上波が付くし、街にはいくらでもサッカースクールがあります。この流れを止めずに、次のカタール・ワールドカップではベスト8以上に食い込めるように、サッカー界全体で頑張っていく必要があるでしょう。

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それなのに、代表チームは親善試合で弱い相手を日本に呼んで『勝った!』『勝った!』とやっている。あれで強化と呼べるのかと、疑問に感じます。強豪国とアウェイで戦う強化を期待します。世界トップの国に行ったり、呼んでくるのが難しいなら、お隣の韓国のフル代表と練習試合をやればいいじゃないですか。ライバル同士ですから闘争心を剥き出しにしたゲームになるでしょう。何が通じて、何が通じないかも分かると思います」

 

1986年以来、ワールドカップでは優勝できていないが、アルゼンチンの代表チームの育て方には一日の長がある。

「アルゼンチンでは、国内組を集めた2~3日の合宿を、毎月のようにやっています。言ってみればB代表です。そのB代表と国内のクラブが練習試合をやって、いい結果を出した選手はヨーロッパ組が帰って来た折に、彼らと共にA代表に選出されるんです。日本代表も、もっとB代表を充実させて取り組んでいく必要がありますよ。

日本サッカー協会は指導者のS級ライセンスやA級ライセンスのために厳しいプログラムを組んでいると言うでしょう。『そのくらいで満足せずに、世界トップの国でS級を取って来い』と思います。これまでに異国で指揮を執った監督って、岡田武史さんと西野朗さんの2人くらいですね。もっともっと、海外に出て、言葉の問題、文化の違いを味わいながら、日本の立ち位置を冷静に捉える人が出て来なければいけない。そこで、自分たちの間違いに気付いてこそ、進歩に繋がります。選手も指導者も、映像を見るだけでなく、どんどん海外に出て行って現場で挑戦しなければ。何が足りないかを思い知らされなければいけません」

南米で成功する選手の多くは、貧困家庭の出身である。サッカーで生活できなければ、3度の食事にありつけない、といったレベルも珍しくない。

「南米には、アルゼンチンかブラジルのクラブで活躍して、ヨーロッパに渡って大金を得る、という図式があります。ウルグアイやコロンビアからダイレクトでヨーロッパのクラブに移籍するのは、なかなか難しい。まずは南米の2大強国で頭角を現す必要がある。サッカーを職業にできなければ、貧しい暮らしに戻るしかないから、選手は飢えた状態を長く保てています。

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日本の高校サッカーは派手にテレビが放送しますが、南米においてU18のクラブ選手権が騒がれることは無いですよ。プロじゃないし、世界にも追いついていないんですから……。あんな調子でワーワーキャーキャーやっていたら、選手はどうしたって勘違いしてしまいます。プロで成功してやる! といった覚悟が今の日本代表からは伝わって来ません。もちろん、指導者からもです。どこかで変化をもたらさなければ、日本はアジアのライバルからも取り残されてしまうでしょう

アルゼンチンサッカーもワールドカップを掲げるまでに、敗北と反省の歴史があった。それを糧としたからこそ、世界の強豪になれた。

「我が国のサッカー界に革命を起こしたのは、ワールドカップ初優勝時の監督、セサル・ルイス・メノッティです。彼は1970年にドイツに留学したんですよ。当時のアルゼンチン選手は、高い技術があってもちょっと腹の出たような選手が普通にいました。でも、ドイツ人選手にそういうタイプは見られなかった。メノッティ自身もアルゼンチン代表のFWでしたが、およそ1年間ドイツで学んだことを母国に還元したのです。それでも1970年のワールドカップは出場を逃しましたし、1974年大会はオランダに0-4で敗れています」

メノッティはオープンスペースを有効に使う攻守の切り替えの速いサッカーを確立し、まずはウラカンを率いて1973年にアルゼンチン国内リーグを制した。メノッティがドイツに渡る前は国内リーグ1部のプロチームであっても、週に2回の練習、週末に試合といったスケジュールだったが、週に6回鍛えることで、ポッチャリした体型の選手はいなくなる。無論、走力も格段に上がった。その後、メノッティは代表監督に抜擢され、母国を1978年ワールドカップ優勝に導くのだ。

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