メソッドとアドリブの相乗効果
とまあ、ドラマだけでなく、さまざまなヒットを生み出した「金八」シリーズ。その起爆剤はひとつの化学反応だった。
プロデューサー・柳井満によれば、当初、生徒役の選考は児童劇団系を中心に行われ、たのきんの3人は入っていなかったという。
「ところが、ジャニーさんがうちの子も見てくれと言ってきまして。当時、ジャニーズ事務所はアイドル歌手の事務所だと思っていたから、なんでドラマなのかと思いましたよ。でも、会ってみると、明るくていいんです。しっかり目標を持っているから、どこかふっきれているんです」(「VIEWS」)
そこで、そのなかからあの3人をピックアップ。内定していたひとりを落として、32人を決めた。これがよかったのだ。
というのも、この時点で中学生を描いた民放の連ドラはあまり成功例がなかった。また、脚本を手掛けることになっていた小山内美江子はとにかく本格的な教育ドラマを志向していたため、NHKが放送していた「中学生日記」のような、真面目だが地味で堅苦しい作品になる可能性が高かった。
そこに、華を吹き込んだのがたのきんの3人。ジャニーズはタレントに歌や演技の形式ばった指導をしないことで知られ、そのパフォーマンスにはそれゆえの自然さと自由さがある。方法論をきちんと教え込まれた杉田・鶴見ら子役出身者たちの演技とは対照的だ。
こうして、メソッドとアドリブの相乗効果が起き、ドラマのエンタメ性が飛躍的に上がったのである。
ちなみに、この生徒役32人のなかには、当時芸能活動をしていた藤島ジュリー景子もいた。メリー喜多川の娘で、現在のジャニーズ事務所社長だ。「金八」を機に、ジャニーズが王国化していったことを思うと、面白い縁といえる。
そんなわけで、ジャニーズを入れた柳井の直感は当たり、このシリーズの伝統的ノウハウとなっていく。
第2作のひかるに「仙八」のシブがき3人、「金八」第3作の森且行、長野博、第5作の風間俊介、亀梨和也、第7作の八乙女光、薮宏太……そして、ファイナルでは岡本圭人。
なかでも、ジャニーズと子役系、それ以外(オスカーなども参入した)の配合が贅沢だったのは、第6作だろうか。加藤シゲアキ、増田貴久、中尾明慶、上戸彩、本仮屋ユイカ、平愛梨といった顔ぶれである。
こうしたノウハウは他局でも取り入れられ、日本テレビ系の「ごくせん」シリーズなどでも有効に作用した。が、本家はやはり、TBS系の学園ドラマだ。そのなかには当然「ドラゴン桜」も含まれる。ジャニーズ枠を活かした上手いキャスティングで、重いテーマも扱いつつ、ヒット性のあるエンタメに変えていく手腕はさすがだ。