対岸の家事』は、朱野帰子さんによる、専業主婦を主人公とした物語だ。「残業はしない」ことをポリシーとする女性を描き、吉高由里子さん主演でドラマ化もされたお仕事小説『わたし、定時で帰ります。』(新潮社)と主人公の「職業」は異なるが、どちらも個人の“働き方”に焦点を当てている。

家庭の形態が変化し、日本人の働き方も変化している。専業主婦家庭と共働きの世帯数は1990年半ばに逆転。「独立行政法人 労働政策研究・研修機構(図12専業主婦世帯と共働き世帯)」によると、専業主婦世帯が571万世帯なのに対し、共働き世帯はその倍以上の1240万世帯を数える
かつては子どもがいて働くことそのものに罪悪感を抱く話が多く出ていたが、世帯数としては数が逆転してから久しいということになる。

9歳と5歳の子を持つ2児の母親でもある朱野さんは、なぜ少数派となった、専業主婦を小説のテーマに選んだのだろうか。朱野さんに話を伺った。

朱野帰子(あけの・かえるこ)
1979年生まれ。大学卒業後、マーケティングプランニングの会社に勤務、サービス残業という言葉がなかった時代から当然のように残業をする日々を送る。2009年に転職した製粉会社では残業が基本的に禁止されており、カルチャーショックを受ける。2009年に『マタタビ潔子の猫魂』で第4回ダ・ヴィンチ文学賞を受賞し作家デビュー。2018年に刊行した『わたし、定時で帰ります。』(新潮文庫)が話題となり、ドラマ化。『駅物語』『対岸の家事』など著書多数。二児の母でもある。

インタビュー・文/長谷川あや

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「家事と育児は仕事じゃない」と言われた

「今も専業主婦がマジョリティーだったら、専業主婦を主人公にした小説は書いていないと思います」

作品の発端は、朱野さんが、第一子の妊娠中に、専業主婦の後輩から聞いた話にあるという。

「児童館で出会った母親に、仕事は何をしているのかと問われた後輩が、『家事と育児です』と答えたところ、『それは仕事じゃないよね』と言われたと彼女は話していました」

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対岸の家事』の冒頭にもそんなシーンが出てくる。自らの意志で家事に専念することを決め、専業主婦となった詩穂は、働く母親たちが自分のことを「絶滅危惧種」「専業主婦になんかなってどうするんだろう?」と言っているのを耳にし、静かにその場から立ち去るのだ。

「専業主婦と共働きの人の割合の逆転を実感し、主婦が少なくなりつつある時代における主婦とはどのような存在なのか、また、主婦がいなくなったあとの日本はどうなるのかといったことに興味がわいてきました」

朱野さんはすぐに編集者に「次は主婦をテーマにした作品を書きたい」と伝えたが、「編集者は、なぜ主婦なのかと疑問に思っていたようでした(笑)」。