失敗したくない若者たち。映画も倍速試聴する「タイパ至上主義」の裏にあるもの

稲田 豊史 プロフィール

キャリア教育が「回り道」を閉ざした

“つまらない作品に当たって時間を無駄にすること”は、失敗。そのような価値観は、一体どのようにして育まれたのか。背景として、大きく2つが考えられる。
 
ひとつめは、キャリア教育だ。

1999年に中央教育審議会がキャリア教育を提唱して以降、中学・高校・大学では、社会に出て就業することを踏まえた教育が推進されてきた。それはそれで意義のあることだが、そのマインドが行きすぎれば、「自分の就きたい職業にとって、この教科は学ぶ必要がない」という判断を、早々に下すことにもなりかねない。

学問にまで、「タイパ」を求めるようになるのだ。

ただ、それは仕方のないことだ。大学で「5年後、10年後の自分のロードマップを描け」などと指導されれば、それを達成すべく、在学中から綿密なライフプランやキャリアプランを組み上げる必要がある。悠長に「回り道」などしている暇はない。「とりあえず就職してから、自分の適性や本当にやりたいことを模索していこう」が許されない時代であり、世相なのだ。

「無論、大人は効率を発揮する局面と、発揮しなくていい局面を理解していますが、子供にはその区別がつきません。10代のうちからそんなふうに教えられてきたら、すべてを効率化しなきゃいけないと思ってしまいますよね」(森永氏)

 

常に“横を見ている”若者たち

もうひとつが、SNSによって同世代と自分とを、容易に比較できてしまうことだ。

「SNSの常時接続によって、常に“横を見ている”状態になっています。Twitterやインスタグラムでは、友人たちはもちろん、同世代でいちはやく何かを成しとげたり、注目を浴びたりする人の動向が、常に見られる状態にある。だから、自分がちょっとでも効率の悪いことをしたら、“同世代から遅れてしまった”、つまり“失敗してしまった”と思ってしまう」(森永氏)

〔PHOTO〕iStock

“横”なんか見なければいいじゃないかと言ったところで、彼らの最重要コミュニケーションツールであるSNSを手放すわけにはいかない。人間関係の大半がそれで成り立っているし、就活の情報収集にも絶対に必要だ。

森永氏は、ある就活イベントで受けた“衝撃”を話してくれた。

『無駄なことをたくさんやるのが、アイデアの発想につながる』と、ごく当たり前のことを話しました。すると、出席者に提出してもらった感想文の半分以上に『無駄なことをしてもいいんですね! 励みになりました』といった主旨のこと書かれていたんです。そんなにも無駄なことをしてはいけないと追い込まれているのかと、驚きました」(森永氏)

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