2021.06.12
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失敗したくない若者たち。映画も倍速試聴する「タイパ至上主義」の裏にあるもの

稲田 豊史 プロフィール

「需要の多様性」がなくなっている

映画興行の現場でも、そんな話を聞く。

信頼している人が薦めている、確実におもしろいと評判の作品しか観に行かない人が、昔よりずっと多い。皆、冒険しなくなっている。だから、当たる作品と当たらない作品の二極分化がはなはだしい」(興行関係者)

結果、一部の作品にだけ観客が集中する。現在、日本では年間1000本以上も映画が公開されるが、供給の多様性はあっても、需要の多様性からは程遠い。

すべての若者がそうだとは言わないが、特に高校生・大学生を中心とした層に、「回り道」や「コスパが悪い」を恐れる傾向は強そうだ。

仕事でコスパを追い求めるならともかく、趣味など心の赴くままに好きにやればいい……はずだが、手っ取り早く重要作品を押さえたい、ポイントを知りたいと、彼らは切に願う。なぜそこまで、“無駄なこと”に時間を割くのを恐れるのか。

 

とにかく、失敗したくない

講義や就活イベントなどで現役大学生と触れ合う機会が多い森永真弓氏(博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所)は、現代の若者気質がその底にあると分析する。

昔と比べて、子供をめぐる環境が全体的に“親切”になっています。大人が子供の気持ちを先回りして察しようと動く。その子供たちは、とにかく大事に大事に育てられているので、痛みに弱い。失敗したり、怒られたり、恥をかいたりすることに対して、驚くほどに耐性が低い」(森永氏)

現在の10〜20代の親世代は40〜50代。子育てのトレンドは「締め付ける」より「優しく」だ。友達感覚で子供と買い物に行ったり、恋バナをしたり、トレンドを共有したりする親も多い。

加えて、学校も子供たちに強く言わない。体罰はもってのほかだが、少しでも厳しく言えばモンスターペアレントがやってくるからだ。

それは、職場の新入社員にも顕著だ。

上世代がよく言う、“失敗してもいいから、まずはやってみろ”は、彼らにとって“いじめ”なんですよ。それで失敗して、上司から失敗の理由を指摘されたら、“だったら先に正解を教えてくれればいいじゃないか……”と思うし、すごく傷つく。

そういう上司は“乱暴”認定され、慕われません。見えている失敗を前もって説明してくれない、不親切で嫌な人と思われるんです。『やってみて、失敗しないとわからない、身にならないことがある』という理屈は通じません。すべての新人がそうではないですが、ここ最近増えた傾向です」(森永氏)

それが、「回り道」や「タイパが悪い」を恐れる気質と、どうつながるのか。

「彼らは、誰に気づかれるでもないような自分の失敗ですら、いやがるんですよ。“つまらない作品に当たって時間を無駄にすること”も、そこに含まれます」(森永氏)

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