「左翼」の時代が来る!分断が加速する今こそ“左派の思考”に学べ

池上彰・佐藤優が語る「左の教養」
池上彰×佐藤優

忘れ去られた「左翼」の定義

佐藤 左翼はきわめて近代的な概念です。もともと左翼・右翼の語源は、フランス革命時の議会において、議長席から見て左側の席に急進派、右側に保守派が陣取っていた故事に由来します。

この左翼、つまり急進的に世の中を変えようと考える人たちの特徴は、まず何よりも理性を重視する姿勢にあります。

理性を重視すればこそ、人間は過不足なく情報が与えられてさえいればある一つの「正しい認識」に辿り着けると考えますし、各人間の意見の対立は解消される、そうした理性の持ち主が情報と技術を駆使すれば理想的な社会を構築することができる、と考えます。

池上 19〜20世紀の左翼たちが革命を目指したのも、人間が理性に立脚して社会を人工的に改造すれば、理想的な社会に限りなく近づけると信じていたからですね。

佐藤 そうです。ですから現在一般的に流布している「平和」を重視する人々という左翼観は本来的には左翼とは関係ありません。

理性をあくまでも重視し、理想の社会を目指す以上は、敵対する勢力と戦わなければいけないこともありますし、ロシア革命を指導してソ連の建国者となったレーニンは「現在の帝国主義戦争(第一次世界大戦)を内乱に転化せよ」と言っていたくらいですからね。

また意外と見逃されている事実ですが、伝統的な左翼は基本的に人民の武装化を支持するものです。職業軍人のような社会の中の特定の層の人たちが武装するのではなく国民皆兵、つまり全人民が武装すれば、国家の横暴にも対抗しうると考えるからです。

ウラジーミル・レーニン

一方で右翼(保守派)の特徴はなにかといえば、彼らも理性を認めないわけではありません。しかし人間の理性は不完全なものだ、と考えているのです。

人間は誤謬性から逃れられない存在なので、歴史に学ぶ謙虚な姿勢が必要です。左翼のように無闇にラディカルな改革を推し進めるのではなく、漸進的に社会を変えていこうと考えるのが本来の右翼です。

たとえば、王や貴族、教会などの存在は、どうして必要なのかを問われて合理的な説明ができる人はいません。しかし長年のあいだこの世に存在してきた以上は、その背後には何らかの英知は働いているはずであり尊重しなければいけない、という考え方を右翼はします。

これが左翼と右翼の根本的な違いです。

池上 私も佐藤さんの左翼観に同意します。戦前から戦後にかけての長い時期に、いわゆる高学歴の秀才たちは、総じて理性に依拠する左派の考え方に魅かれていきました。

しかし現在の左翼・右翼像と照らし合わせて、佐藤さんの説明に違和感を覚える人もいるでしょうね。時代とともに、「左翼=反戦平和」といった左翼観に変貌した印象があります。

佐藤 そうですね。たしかに現在の日本における左翼・右翼像はいま私が言った本来の姿からはかなり遠ざかっています。

先ほど言った、左翼とリベラルの混同もさることながら、右翼=保守派の側も、教育基本法を改正すれば立派な国民ができあがる、「愛国心」を憲法に書き込めば国民の間に愛国心が育つ、などと言い始めています。

でもこうした、国民の心情・精神に人工的な改造を施そうなどという発想は、もともとは左翼の構築主義に典型的に見られたものです。本来の保守派はこのような発想はむしろ嫌うものです。

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