男性も妊娠できるようになった10年後の世界

「女性のほとんどは『なんで女だけ妊娠・出産でつらい目に合わなきゃいけないの!男も妊娠できたらいいのに!』と思ったことがあるのではないでしょうか。私もその一人でした。なので、多くの女性に共感し、面白がってもらえるのではと考えました」

そう語るのは、『ヒヤマケンタロウの妊娠』の著者である漫画家の坂井恵理さん。

『ヒヤマケンタロウの妊娠』は月刊コミック誌「BE・LOVE」に連載され、2013年に単行本化、続編の『ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編』も連載されていた人気マンガだ。このマンガを原作としたドラマが、2022年に斎藤工さん主演、共演に上野樹里さんらをむかえ、Netflixとテレビ東京の共同制作ドラマとしてNetflixで公開されることが発表されたのだ。最近、ドラマ収録中の斎藤工さんの「妊夫」姿が報じられたのをご覧になった方もいるだろう。

ヒヤマケンタロウの妊娠』は男性も妊娠できるようになった10年後の世界を舞台にしたリアルファンタジー。主人公の桧山健太郎は32歳、超仕事のできるレストランチェーン企画部の部長だ。独身で仕事バリバリのイケメン、こっそり社内でも憧れられる存在でもある。そんな彼が病院で「妊娠です」と告げられた――。

「子どもどころか、結婚すら一生する気なんてなかった」

残念ながら思い当たる相手が複数いる「サイテー男」の桧山、一度は「堕ろします!」と即答するも、中絶するには開腹手術が必要で、1週間は仕事を休まねばならないと知り、桧山は躊躇する。産むか、産まないか。決めかねながら生活が進んでいき、身体にも変化が生じてくる。そこで気になるのが道端で人に平気でぶつかって歩く人、つわりで遅刻するという電話に嫌味をいう会社の同僚……。

さらに産婦人科で桧山をみかけた社員から会社にもばれ、責め立てられるときに思うのだ。

「なんなんだよ! 女が妊娠したら『おめでとう』だのお祝い強制だのの雰囲気になるくせに!男が妊娠したら笑いものかよ!

――――産んでやる。

俺の会社での立場、
もの珍しい「妊夫」という立場、
すべてを利用して、俺の居場所を作って見せる!!」

(c)坂井恵理/講談社『ヒヤマケンタロウの妊娠』より
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自分も妊娠するまで「他人事」だった

この桧山健太郎の覚悟は、男女雇用機会均等法以前の女性が「働きながら産むことができるか否か」に直面したそのときと同じなのではないだろうか。必死の思いで子どもを産みながら居場所を作ってきた女性の先人がいるからこそ、いまこうして女性が働きながら出産することが普通の権利として認められてきたのだということも、改めて感じるのだ。

性別の違いだけではない。坂井さんは描くときに大切にしたことを次のように語った。

「企画の段階では、私も妊娠経験がありませんでした。子どもがいる友人に取材もしたのですが、いまいち『自分事』として受け止められず、なかなか物語を作れずにいました。そんな時に自分の妊娠が発覚し、すると一気にヒヤマの物語が出来上がったんです。この自分の経験から、男性にとって妊娠・出産が『他人事』になってしまう気持ちも理解できましたし、それを漫画の中に盛り込むこともできました

父親が初めてワンオペで育児をして家事育児の大変さを感じたという話もよく聞くが、この作品は「今いる姿で、今の自分の環境のままで妊娠したらどうなるのか」を描いているため、さらにリアルに想像することができるのだ。また、当然子どもは授かりもので、欲しくても授からない状況があることも率直に伝えている。性別や立場を超えて妊娠・出産を知るためのバイブルともいえるのではないだろうか。

ドラマは多くの人によって作り上げられていく

さて、現在順調に撮影が進んでいるというドラマ。坂井さんも現場を見てきたという。

「漫画を描くという作業は、ほぼ私一人で行うものです。一方のドラマは、多くの人々が関わり、作り上げられるものですよね。先日、撮影現場にお邪魔した際、そのことを目の当たりにして、本当に感激してしまいました。素晴らしいキャスト、スタッフによって作られるドラマ版の完成が、今から本当に楽しみです」

並行して、続編の『ヒヤマケンタロウの妊娠 育児編』も上下巻で単行本化される。
「『育児編』については、育児の大変さはSNSでも話題になりますし、子どものいる人以外にも理解・共感されやすいのですが、子育てはつらいだけではありません。パートナーや、まわりと負担を分かち合えればなおさらです。
育児のつらさを語るのも大切なことですが、それと同じくらい、子どものかわいさ、子育ての喜びも描くように気を付けました」

この「育児編」単行本発売を記念して、期間限定で『ヒヤマケンタロウの妊娠』3話までの無料試し読みが実現。6月18日(金)0:00までなのでぜひこの機会にお読みいただきたい。

桧山健太郎を演じる斎藤工さんはドラマ化に際し、このようにコメントを寄せている。
「妊夫として過ごす時間は、すでに驚きの連続です」

斎藤工さんをして「驚きの連続」という妊娠・出産は、きっと多くの人にそのリアルを伝えてくれることだろう。