女性には「生き別れた賃金」がある

『失われた賃金を求めて』は、単にこのような現状を挙げていくだけではない。ある重要な問いを冒頭に掲げ、本全体を通してその答えを探求する構成になっている。それは「韓国で、女性がもっと受け取れるはずだった賃金の金額を求めよ」という、一見シンプルな問いである。

ただ、この問いに答えることは実はとても難しい。なぜなら、「女性」とはどんな属性の女性を指すのか、「もっと」とは誰(何)と誰(何)との差なのかなど、計算する前に考えるべきことがたくさんあるからだ。

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イ・ミンギョンは次のように考える。この問いへの答えとして、同一の職務につく男性の賃金と女性の賃金との差を求めるだけでは足りない。さらに、女性が男性と同じように勤務をつづけ出世していればもらえるはずだった賃金の総額を求めるだけでも足りない。退職せざるを得なかった女性、退職させられた女性、希望する仕事に就職できなかった女性、そのための学歴を得られなかった女性たちが「受け取れるはずだった賃金」も計算しなければならない、と。

著者はそれを「生き別れた賃金」と呼ぶ。女性の人生には、幼少期からずっと「もっと受け取れるはずだった賃金」がその手から離れて「迷子」になってしまう局面が繰り返し訪れる。

〔PHOTO〕iStock

『失われた賃金を求めて』が明らかにするのは、性差別が埋め込まれた社会では、賃金統計などの一つの指標だけでは本当の男女格差はとらえきれないということだ。女性の「失われた賃金」は可視化されず、それによって女性の尊厳が削られ続けていることにも多くの人は気づかない。