“なろう系”書籍の爆発的ヒット後、市場が成熟して新時代に突入するまで

飯田 一史 プロフィール

――当時ラノベの主流は圧倒的に文庫。一方、アルファポリスがウェブ小説を書籍化する際は基本的にソフトカバーの単行本サイズで刊行していて、文庫のラノベとは「別物」だと見られていましたよね。それが2012年9月に主婦の友社がヒーロー文庫を創刊し、「なろう系」が「文庫」で出て書店の「ラノベ棚」に並ぶようになった。堤さんがフロンティアワークス時代に手がけられた2013年8月創刊のMFブックス(KADOKAWAとの共同事業)やアリアンローズは四六判単行本サイズですが、この判型を選んだ理由は?

堤 リサーチの結果、文庫のラノベは当時10~20代中心のマーケット、対して「なろう」やArcadiaといった投稿サイトから書籍化された作品は30~40代中心の社会人に支持されていることがわかりました。だから、中高生が中心となっているラノベ棚ではなく単行本として文芸書売場に置いてもらった方が社会人は買いやすいはずだ――と。それで「“ウェブ小説書籍化特化”の“単行本レーベル”」として創刊しました。

――女性向けではイースト・プレスのレガロシリーズ(2007年創刊)やアルファポリスのレジーナブックス(2010年創刊)がウェブ小説書籍化レーベルとしては先行していましたし、男性向けでも文庫では林檎プロモーションのフェザー文庫(2011年創刊)やヒーロー文庫はありましたが、男向けで単行本サイズのウェブ小説書籍化レーベルはMFブックスが最初でしょうね。「レーベル」でなければエンターブレインから橙乃ままれ氏の『ログ・ホライズン』(書籍化は2011年から)などが単行本で出ていましたが。

堤 MFブックスとアリアンローズは非常に参入タイミングがよかったと思っています。アルファポリスさんが切り拓いた道を僕らが舗装し、その後、いろいろな出版社が参入するようになった。僕らは早くに入ったおかげで、「なろう」で2013年から2019年まで約5年間累計ランキングトップに君臨し続けた『無職転生』のような象徴的なタイトルの書籍化を手がけることもできました。

それと、実は当時僕らはなろう系を「ライトノベル」ではなく、また別の「社会人向けエンタメ小説」だと捉えていました。逆に言うとヒーロー文庫さんはライトノベルだと捉えていた、またはそう捉えられることを狙ったのかな、と。そこも我々と他社さんでは違っていたと思います。

 

――ヒーロー文庫が重版率100%を叩き出し、どのタイトルも最低数万部の売れ行きでラノベ業界に衝撃を与え、その後、角川スニーカー文庫から暁なつめさんの『この素晴らしい世界に祝福を!』が2013年10月から、MF文庫Jから長月達平さんの『Re:ゼロから始まる異世界生活』が2014年1月から刊行されるなど、従来の文庫ラノベのレーベルからも「なろう」発作品がヒットするようになり、なし崩し的に「なろう系はラノベの一種」という認識に変わっていった印象があります。

堤 ただ、もともとのライトノベルの編集者と僕みたいなウェブから作品を発掘するタイプの編集者では、企画に対するアプローチの仕方は違うと思っています。ラノベ編集者は作家と二人三脚でゼロイチで作っていきたいタイプが多い。対して僕の場合はゼロイチというよりも既にある1を10や100にしたいという志向が強い。ウェブ上でパワーのあるエンタメを、出版をはじめとする別の場所に持っていって価値を変換し、増幅する「アグリゲーター」という意識で活動しています。

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