2021.06.08
# 北朝鮮

「金正恩は独裁者」は幻想だった…北朝鮮で起きている「金王朝の変質」の正体

北朝鮮エリート層の思惑
牧野 愛博 プロフィール

北朝鮮は今後どう出る?

では、北朝鮮は今後、どのような政治・外交を展開していくだろうか。

エリート層は、現在の既得権を確保することが至上命題になっている。北朝鮮がハノイでの米朝首脳会談で大胆な合意に応じなかったのは、北朝鮮が国際社会に復帰したときに人道などの罪で責任を追及される恐れがあるという懸念があったからだろう。

ただ、利権には敏感なので、米朝関係が進展することで経済的な利益を得たいという思惑は持っているようだ。さらに、金正恩体制の維持も必要で、金正恩氏に箔をつけるような外交にも関心を持つだろう。

バイデン米政権は北朝鮮政策をまとめ、ソン・キム駐インドネシア大使を北朝鮮政策特別代表に任命したが、北朝鮮は公式的な反応を示していない。おそらく、バイデン政権が示している「段階的で実用的なアプローチ」に魅力を感じていないのだろう。

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北朝鮮エリート層が望んでいるのは、自分たちが生き残るために都合の良い政治的な妥協であり、「核なき世界」だとか、北朝鮮での人権状況の改善といったことには全く興味がないからだ。今後は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射や核実験といった、米国を激怒させるような挑発もやらない代わり、大胆な譲歩も示さない可能性が高い。

なお、韓国の文在寅政権のブレーンたちからは、党規約改正の意味について「北朝鮮が赤化統一を諦めた」「日本との関係改善を模索している」などと解釈する声が上がっている。

しかし、長年北朝鮮政策を担当した韓国政府元高官は「彼ら(文政権の側近たち)は見たいものしか見ない。南北関係改善を望む自分たちに都合の良い解釈しかしない」と語る。

 

元高官は「規約で革命という言葉は消えたが、共産主義社会を建設するという言葉が残っている。もちろん、現状では可能性が低いとはいえ、状況が許せば、いつでも韓国を吸収しようとするだろう」と語る。

そして、日朝関係について、規約から「日本軍国主義の再侵略策動を押しつぶし」という文言が消えたことについて、「日本軍国主義が遠い過去の話だということは、北朝鮮もわかっている。古い表現を整理しただけで、それが日本への対話のシグナルであるわけがない」と指摘する。実際、北朝鮮国営メディアは党規約改正後も、日本を批判する報道を続けている。

金王朝の変質は、正恩氏にとっては不幸なことかもしれないが、北朝鮮の外交や政治路線に大きな変化をもたらすものではないだろう。むしろ、政治的能力に欠ける正恩氏を祭りあげることで、現在の政体を強化することになるかもしれない。少なくとも北朝鮮エリート層はそれを狙っている。

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