2021.06.08
# 北朝鮮

「金正恩は独裁者」は幻想だった…北朝鮮で起きている「金王朝の変質」の正体

北朝鮮エリート層の思惑
牧野 愛博 プロフィール

北朝鮮の“本当の”姿は?

私たちが、「金正恩氏は絶対的な独裁者だ」と判断している根拠は、実は北朝鮮によるプロパガンダ活動から来ていることも忘れてはいけない。

朝鮮中央テレビが今月5日に伝えた、党政治局会議の冒頭でも、入場する金正恩氏に対し、出席者らが顔の高さまで手をあげて一生懸命拍手する様子が映し出されていた。

労働新聞の1面トップは連日、最高指導者に関する報道で占められるし、テレビのアナウンサーは金正恩氏の動静を必ず敬語で伝えている。こうした公式資料を分析しているだけでは北朝鮮の本当の姿は見えてこない。

今回の党規約改正では、党政治局が「党中央委員会総会を招集する」(27条)、政治局常務委員会が「政治、軍事、経済で緊急に提起された問題を討議、決定する。党と国家の重要人物を任命する問題を討議する。総書記の委任により、党政治局会議を司会できる」(28条)など、細かな権限について決められた。

 

別の元党幹部は「これで、政治局の幹部たちが安心して行動できる根拠を得たと言えるだろう」と語る。根拠がはっきりしていれば、権力闘争が起きたときに「あの幹部が最高指導者に断りもなしに、勝手なことをしている」という讒言を浴びずに済む。この元幹部は「金王朝の崩壊は誰も望んでいない。でも、実態は合議制を導入するなど、王朝の変質化が始まったとみるべきだろう」と話す。

北朝鮮は今月上旬、党中央委員会全体会議を開く。新たな党規約26条は、党中央委全体会議が、新設された第1書記の選挙も行うと定めている。このため、上旬の会議で第1書記が選ばれる可能性がある。

現状で、第1書記に就任する可能性が最も高い人物は、趙甬元(チョ・ヨンウォン)党政治局常務委員だろう。党規約は今回の改正で、党が軍に優先する仕組みを明確にした。趙氏は党組織指導部出身のエリートだからだ。ただ、北朝鮮では「最高指導者以外は皆平等」という建前がある。第1書記に就いた者は「白頭山血統」ではない場合、常に権力闘争に巻き込まれる危険と隣り合わせになっているとみるべきだ。

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