2021.06.08
# 北朝鮮

「金正恩は独裁者」は幻想だった…北朝鮮で起きている「金王朝の変質」の正体

北朝鮮エリート層の思惑
牧野 愛博 プロフィール

元党幹部は、金正恩氏がエリート層を従えているのではなく、エリート層が金正恩氏を必要としているというのが正しい見方なのだと説明する。それは、正恩氏が金日成主席の孫であるという「白頭山血統」に連なる人物だからだ。

金正恩氏を支えるエリート層は1948年の建国以来、一度も民主的な選挙を経ることなく、政権の座に居座っている。その根拠は、祖国を解放した抗日パルチザンの英雄である金日成主席の子孫を担いでいるというものでしかない。

持って生まれた正恩氏の血筋が、エリート層には必要なのだ。シェーファー元大使も、北朝鮮では軍や国家保衛省などの強硬派と外務省や党統一戦線部などの対話派との間で権力闘争があったものの、「金王朝の存続が、彼ら(エリート層)の共通の関心事項でもある」と語る。

photo by gettyimages
 

もちろん、正恩氏には日米の指導者のような任期があるわけではない。正恩氏は権力継承後、10年近くも政権の座にあった。ここで、正恩氏が業績を積み重ね、エリート層から信頼を得られるようになっていれば、祖父のような絶対的独裁者になることも可能だったかもしれない。

だが、正恩氏による、東部の元山葛麻海岸観光地区や中朝国境にある三池淵地区などの大規模開発事業は、工事が始まってから3年以上経った今でも、完成のめどが立っていない。ミサイルや核開発を進めた結果、国際社会による経済制裁は厳しさを増している。18年から19年にかけては、米国や韓国との間で首脳会談を何度も行ったが、結局、何の利益も得られなかった。

最近は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための国境閉鎖が1年以上も続き、国民生活は疲弊している。逆に、エリート層の間で「このまま正恩に任せておいて大丈夫か」という懸念が広がった結果が、今回の「第1書記」のポスト創設につながったのではないか。

関連記事